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迷宮 [日本の作家 さ行]


迷宮 (集英社文庫)

迷宮 (集英社文庫)

  • 作者: 清水 義範
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2002/05/17
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
24歳のOLが、アパートで殺された。猟奇的犯行に世間は震えあがる。この殺人をめぐる犯罪記録、週刊誌報道、手記、供述調書……ひとりの記憶喪失の男が「治療」としてこれら様々な文書を読まされて行く。果たして彼は記憶を取り戻せるのだろうか。そして事件の真相は? 視点の違う"言葉の迷路"によって、謎は深まり闇が濃くなり――名人級の技巧を駆使して大命題に挑む、スリリングな異色ミステリー。

文庫化されたのは2002年なのに、「すごいすごいすごい! こんなとてつもない一冊が埋もれていた!!! 謎だらけで、とにかくぐいぐい引き込まれます。」という文教堂書店の方が書いた帯がついて、本屋さんにいっぱいいっぱい並んでいました。
各種ベストでも名前を見た記憶ありませんが、尋常でない煽りの帯で、あらすじ見ると「異色ミステリー」とある。本屋にもどーんと積んである。これは読んでみなければ、と思って購入しました。
清水義範さんといえば、「国語入試問題必勝法」 (講談社文庫)をはじめとするパスティーシュで有名ですが、ミステリでは、「やっとかめ探偵団」 (光文社文庫)のシリーズがあります。やっとかめシリーズは、名古屋の老人探偵団を扱い、ミステリ的には軽いもので、すいすい読めるものでしたが、あらすじを見ると本作は趣が違うようで、いろいろなタイプの文書が出てくるところから、折原一のような叙述トリックを駆使したものかも、という予感があります。
冒頭の「自分のことを私と称することにする。おれや、ぼくには、年齢や性格や社会的な立場など微妙なニュアンスがこめられている気がするから。最も無色に近い私という語を使うのが、私には妥当だろう」、というのも、いかにも叙述トリックが使われていそうで、わくわくできる素晴らしい文章だと思います。
さまざまな体裁の文書そのものは、さすが清水さんという作りになっています。
叙述トリックが使われていたかどうかは、ここでネタばれするわけにもいかないので、実際に読んで確認していただくしかないですが、この作品の目指しているところは、ミステリの目指しているところとはずれていると思います。
事件の真相は? という一般的にミステリで取り扱われる謎に加えて、記憶喪失者である「私」と私に対峙する「治療師」の正体という謎、「私」の記憶は戻るのか?(あるいは戻っているのか?)という謎、などが出てきますが、いずれもミステリとしてみるとあまりにも物足りないというか、ありきたりというか、そういう印象です。
記憶喪失もので記憶喪失者本人を語り手にしない場合、記憶が戻ったのかどうか、という点は曖昧というか、きちんとつきとめることはできません。記憶喪失者を視点人物にして同じような状況を作り出した点は新しいように思いますが、本作は文書がメインを占めて私の語りの部分はほとんどないので、すごいなぁ、と素直に感心はできません。(なお、私が記憶喪失であることが明示されるのはP136とかなり進んでから--それまで匂わせてはあるものの「精神のねじれ」などという曖昧な表現でしか言及されていません--なので、裏表紙あらすじはちょっとフライングかと思われます。)
読者をタイトルどおり「迷宮」に迷い込ませるのが狙いで、それは十分成功していると思いますが、ミステリとしての謎の迷宮ではなく、物語世界の立脚点がずれていくことによる幻惑感による迷宮だと思います。
本作は、ミステリを期待するのではなく、作者の超絶技巧ぶりを堪能するのがよいと思います。

タグ:清水義範
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