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騎士の盃 [海外の作家 カーター・ディクスン]


騎士の盃 (ハヤカワ・ミステリ文庫 6-10)

騎士の盃 (ハヤカワ・ミステリ文庫 6-10)

  • 作者: カーター・ディクスン
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 1982/12
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
誰かが鍵のかかった部屋に入り、騎士の盃を動かしている--ブレイス卿夫人の訴えに、マスターズ警部は現地へ赴いた。近くに住むH・M卿を頼みにしていたが、卿は歌の練習に余念がない。仕方なく自ら問題の部屋に泊まった夜、警部は何者かに殴られた。ここに至り卿はやっと重い腰をあげた。だが、ドアを抜け、宝物を盗まずに動かすだけという怪人の真意とは? 著者得意の密室犯罪をユーモラスに描くH・M卿最後の長篇

不可能犯罪の巨匠といわれるディクスン・カーが、カーター・ディクスン名義で発表したH・M(ヘンリー・メリヴェール)卿最後の長篇です。
殺人事件はありませんが、この作品でも密室状態の事件を扱っています。
密室トリック自体は割と平凡な印象ですが、その使い方、犯人との関連づけはさすがだと思います。しかしながら、この作品の眼目はやはり、密室トリックではなく、なぜ犯人は盃でいたずらしただけで盗まなかったのか、という謎でしょう。動機も巧妙に隠されています。密室であること自体が一種のミスディレクションとなっていてすばらしい。不可能犯罪の巨匠というのはその通りですが、トリックだけにとどまらず、謎の扱い方、演出に秀でた作家だったのだなと改めて思います。
H・M卿が登場する作品らしく、この作品でもドタバタというかハチャメチャな展開があります。H・M卿が事件そっちのけで歌の練習をしている! というだけでも相当なものですが、その歌声のたとえが、"爆弾"とか"咆哮"...うーん、聞きたくない。H・M卿はドラえもんのジャイアン並みの扱いです。
H・M卿とは旧知の仲というブレイス卿夫人の父ハーヴィ(アメリカの下院議員)とのイギリス対アメリカの優劣争い(?)、労働党女性議員チーズマンとH・M卿との新旧勢力の争い、そしてハーヴィ議員とチーズマン議員のやりとりと、いずれもカーのやりたい放題です。ちょっと泥臭い感じもしますし、これが好きになれない人も結構多いのではないかと思います。
カーの作品というだけで、それなりに幸せな気分になるのですが、ブレイス卿夫人が事件を説明しようとするとマスターズ主任警部がいちいち話の腰を折ってちっとも進まないので、さすがに冒頭いらいらしていしまいました。1/3ほど進んでもまだ説明が終わらないのですよ! マスターズってこんな嫌なやつでしたっけ?
「ちゃんとした探偵小説でないといやなんです。手のこんだ、洗練された問題を提起して、読者にも謎ときの機会を公平に与えてくれるものでないとね」「作者がじょうずに書けないので、心理学の研究だなんていっているのはだめね」なんてせりふも出てきてニヤリとしました。誰の作品を念頭にカーは書いたのでしょうね?
というわけで万人にお勧め、とはいきませんが、本格ミステリがお好きなら、読んで損したことにはならないと思います。
ところで原書は1954年。第二次世界大戦後10年近いのですが、貴族、屋敷だなんだと、こんな感じだったのですね。なんだか不思議な感じです。


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