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黒猫の遊歩あるいは美学講義 [日本の作家 ま行]


黒猫の遊歩あるいは美学講義

黒猫の遊歩あるいは美学講義

  • 作者: 森 晶麿
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2011/10/21
  • メディア: 単行本


<あらすじ>
でたらめな地図に隠された意味、
しゃべる壁に隔てられた青年、
川に振りかけられた香水、
現れた住職と失踪した研究者、
頭蓋骨を探す映画監督、
楽器なしで奏でられる音楽……。
日常のなかにふと顔をのぞかせる、幻想と現実が交差する瞬間。
美学・芸術学を専門とする若き大学教授、通称「黒猫」は、
美学理論の講義を通して、その謎を解き明かしてゆく。

単行本で、第1回アガサ・クリスティー賞受賞作です。
早川書房がはじめた公募のミステリ賞ですが--アガサ賞が既にアメリカにあるので、呼称としてまぎらわしいですね(マリス・ドメスティックという団体が主催しています)--、さて、どんな作品が受賞するのか、と期待していましたが、結果は、アガサ・クリスティーから連想するような作風ではありませんでした。江戸川乱歩賞の公募初回の受賞作「猫は知っていた」 (ポプラ文庫ピュアフル) も、江戸川乱歩から連想する作風とはまったく異なっていましたので、これでよいのかもしれませんね。
選評でミステリマガジン編集長が述べているように、「ポー作品の新しい解釈と別の古典と日常の謎を三つ巴にする」作品があつまった短編集です。
苦手というか、好きではない作品でした。
まず個人的には、この探偵"黒猫"が好きになれませんでした。「美的でない解釈が解釈の名に値しないように、美的でない真相もまた真相の名に値しない」とP14で宣言したときは、かなり期待したのですが。
作品の要ともいえる薀蓄も、ただただ嫌味に感じられてしまいました。なので、博士課程1年目の語り手と黒猫の恋心の行方にも、残念ながら興味を惹かれませんでした。なぜでしょうね? 同じように一方的に薀蓄を披露する高田崇史のQEDシリーズの"タタル"にはあまり嫌味を感じないのですが...薀蓄の聞き手が、QEDシリーズは歳下の素人であるのに対し、この作品では、同い歳のポオの研究者でいわば玄人であることも一員かもしれません。天才で24歳にして教授であっても、同い年のプロよりも詳しい薀蓄を傾けるという構図がいっそう嫌味感をかきたてたのかも。これが、好きな女(語り手です)のために、専門外のポオをがんばって読み込んでます、みたいなエピソードが匂わせてあれば大分印象が変わっていたのかもしれません。
これで事件が意外性十分だったら、作品に対する好感度がアップしたのですが、どれも非常に小粒な日常の謎で、個々の解決も非常に苦しい。第四話や第五話なんて不自然極まりない上に、アンフェアというかインチキに近いですし、すぐに真相に気づかれてしまいそうです。しかも、美的ではないと思いますよ、用意されている真相は。
また、公募のミステリ賞は長編だという思い込みがこちらにあったからか、短編集であったことも読後感で損をしていると思います。
ポーをモチーフにミステリにするのなら、平石貴樹の「だれもがポオを愛していた」 (創元推理文庫) のような方向がうれしいと思います。
この作品の場合、いっそ、日常の謎はやめて、ポーの作品の解釈のみに的を絞ったほうがよかったのではないでしょうか? ポーの作品の解釈の部分は、嫌味ではありましたが、たとえこじつけめいていても、とてもおもしろかったので。
次作は大きく傾向が変わるでしょうから、着眼点という長所を存分に活かした作品にしてほしいです。

<追記>
文庫化されましたので、書影&リンクを貼っておきます。

黒猫の遊歩あるいは美学講義 (ハヤカワ文庫JA)

黒猫の遊歩あるいは美学講義 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 森 晶麿
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2013/09/05
  • メディア: 文庫


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コメント 1

ブッセ

比較的庶民的そうだし、日常的になりそう。

しかもイクメンですから、もしかしたら小さくまとまって
しまってるのかも知れません・・・。
緊張感はあまり感じなくて、読みやすかったですね~。
これはこれで有りかと。

しかしアガサ・クリスティー賞って名前は仰々しいけど。
森さんが受賞した理由として、面白いのが↓のサイト。
http://www.birthday-energy.co.jp
森晶麿さんの作家として評価が掲載されてます。
今年は目立つ時期の間にあるので、賞とか引き寄せたのかも。
by ブッセ (2011-12-09 00:10) 

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