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グリンドルの悪夢 [海外の作家 パトリック・クェンティン]


グリンドルの悪夢 (ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ)

グリンドルの悪夢 (ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ)

  • 作者: パトリック クェンティン
  • 出版社/メーカー: 原書房
  • 発売日: 2008/02
  • メディア: 単行本


<表紙袖あらすじ>
「グリンドル樫にコンドルが留まると盆地に死が訪れる」 片田舎の小さな村で少女が失踪した。村人総出で探したが見つからなかった。村では最近、猫や猿、鵞鳥などのペットが次々にいなくなっているという。これが少女の失踪になにか関係はあるのか。やがて少女の父親が水死体で発見された。彼は娘の居所をつかみかけていたようだったのだが……。

原書房のヴィンテージ・ミステリ・シリーズの1冊で、単行本です。原著は1935年です。
クラシック・ミステリというと、がちがちの本格ミステリを思い浮かべてしまいますが、この作品はかなりサスペンスにあふれたものになっていて、この後のパトリック・クェンティンの作品を思わせます。
少女を村人が捜索するオープニングから、不穏というか特徴的な雰囲気ですし、中盤は一癖もふた癖もある村人が繰り広げる狂騒曲ともいえる趣で、終盤の緊迫感は本格ミステリらしからぬ(?)迫力です。
ミステリとしてのメインアイデアは、聞いたことがない用語で説明されていてちょっと面食らいますが、難しいことをいわなくても普通のアイデアで、そんなに珍奇なものではないと思います--だから、犯人もさほど意外ではありません。
アイデアそのものよりも、そのアイデアをどう隠すのか、というところがおもしろかったですね。
誰が探偵役なのか不明瞭なまま物語は進んでいきますし、語り手スワンソンの信用している友人トニーの行動が怪しくなってきて、スワンソンの考えることがかなり揺れ動くので、誰を信用してよいのやらわかりません。
スワンソンも、とぼけているのか、マジ呆けなのか、なんとも変わったテイストになっています。
これが、さきほどのアイデアの目くらましに実に効果的だったように思います。これはかなり珍しい隠し方。
それと平仄を合わせるように、スワンソンと関連するエピソードが終盤で明かされたときには、びっくりしました。真相がさほど意外ではないのを補うかのようです。作者はニヤニヤしながら仕掛けたんだろうな、と思います。これがそのまま、物語を締めくくるエンディングへとつながっていくのもなかなか楽しい趣向でした。
というわけで、まずはおもしろい作品です、といいたいところなのですが、この作品にはひとつ大きな難点があります。冒頭に出てくる少女の取り扱いが、いくらなんでもやりすぎで、エンターテイメントとして失格だと思われるからです。近頃の目を背けたくなるようなサイコ・サスペンスではないのですから、節度を持ったプロットにしておいてほしかった。残念です。

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