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六月六日生まれの天使 [日本の作家 愛川晶]


六月六日生まれの天使 (文春文庫)

六月六日生まれの天使 (文春文庫)

  • 作者: 愛川 晶
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2008/05/09
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
ふと目覚めると、私は記憶を失っていた。同じベッドには、ゴムの仮面を破った全裸の男が眠っている……。ここはどこ? この男は誰? 扉を開けると、意外にも外は雪。そして初老のサンタクロースが、私に手招きをしている!
記憶喪失の女と謎の男の奇妙な同居生活、その果ての衝撃! 傑作ミステリー長篇。

文藝春秋から本格ミステリ・マスターズという叢書で出ていたものの文庫化です。2008年の文庫化なのですが、つい最近も本屋さんで平積みになっていました。かなり売れているということですね。いまでも簡単に手に入ると思います。
文庫についている帯には、「読み終えたあと、必ずもう一回読みたくなります」「この仕掛け、あなたはどこまで見抜けるか?」「これが、恋愛ミステリーの最高峰です。」と書いてあります。
これでもう、どういう傾向のトリックを用いたミステリーかお分かりですね? フェアに書かれているとは思いましたが、"衝撃"は味わえませんでした。
ヒロインは記憶喪失の状態で物語がスタートします。記憶を失う前の性格などはわからないものの、まっさらな状態になっているという設定なので、過度に憶病にふるまうということを別にすると-状況としてそりゃあ、臆病にもなりますよね-、考え方や行動パターンとしては一般の読者があまり違和感を感じないようになっているのが普通の記憶喪失ものです。ところがこの作品ではヒロインがいきなり無茶苦茶な行動をとります。冒頭から主人公に全く共感できない、という困った展開になりました。
一応の意味づけはなされているものの性描写がしつこくされていることもあり、途中で投げ出す読者もそこそこいらっしゃるのではないでしょうか?
記憶喪失ものは、「自分はだれか」を突き止めることが主人公を動かす原動力となります。もちろんこの作品もそうです。でも、ミステリにおける記憶喪失ものでは「自分はだれか」を突き止めることは主眼ではないと思っています。背景となる、記憶喪失の自分を取り巻く状況や記憶喪失に至った顛末を探ることが主眼となっている作品が多いからです。この作品ではその肝心の背景が暴力団です。よほど上手く取り扱わないと、安直だし、陳腐です。
確かに、この作品のメインのトリックを成立させるためには、背景は陳腐なものでなければならなかったのだとは思いますが、陳腐さを我慢して手に入れたにしては、トリックで得られる効果に"衝撃"がありません。ちょっとバランスが悪かったですね。そのためにトリックのために都合よすぎる人物配置という印象が拭い難くなっています。また、トリックをめぐるさまざまなテクニックが投入されていますが、複雑になりすぎているのも読後感にマイナスではないでしょうか?
非常に力のこもった力作なのだとは思うので、非常に惜しいですね。

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