木曜日だった男 [海外の作家 た行]
<裏表紙あらすじ>
この世の終わりが来たようなある奇妙な夕焼けの晩、十九世紀ロンドンの一画サフラン・パークに、一人の詩人が姿をあらわした。それは、幾重にも張りめぐらされた陰謀、壮大な冒険活劇の始まりだった。日曜日から土曜日まで、七曜を名乗る男たちが巣くう秘密結社とは。
本書は新訳です。
原題(The man who was Thursday)をそのまま訳したタイトルになっています。
「木曜の男」 (創元推理文庫) を昔読んでいますので、再読です。
ついでに(?)創元推理文庫版の書影もはっておきます。
昔読んだ時には、正直よくわかりませんでした。なんだか読みにくかった記憶だけが残っています。
今度の新訳は、南條さんの訳文がとても読みやすかったですね。なにせ100年以上も前に書かれている作品なので時代は感じさせますが、それでも読みやすい。
昔読んだことでかろうじて覚えているのは、第14章までのストーリー展開(?)だけで、最終章である第15章の記憶がありませんでした。なので、今回読んでびっくり。
第14章までだけでも、相当奇天烈な話なので、「ブラウン神父の童心」 (創元推理文庫) をはじめとするブラウン神父シリーズの作者らしさ満点です。
読んでいて楽しかった。無政府主義者とその反対の立場(何というのでしょうね? 政府擁護者?)の論争からはじまって、捜査官が無政府主義者の秘密結社にもぐりこむ。テロを阻止しようと冒険活劇のはじまり、はじまり。
結社の秘密は途中で見当がつきますが(そのように書いてあります)、「幻想ピクニック譚」と帯には書いてある通り、スリルある展開のなかでスピーディに舞台を移して進んでいく冒険物語に身をゆだねるだけでも十分楽しめます。スリリングなはずなのに、どこかおっとりした風情が漂うのも特長です。
が、本書の真価はたぶんそのあとの第15章にあるのだと思います。「たぶん」というのは、今回読んでみてもやっぱり良く分からなかったからです...作者の思弁、思想が出ているのだと思うのですが...
副題が「一つの悪夢」で、すべてが悪夢のようなもので、まるで夢から醒めたように、サイムが澄み切った心持ちになったラストから、なんとはなしに、破壊や苦しみを経ても、秩序ある安寧を最終的には目指しているような、そんな気がしています。
タグ:G・K・チェスタトン
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