帝都衛星軌道 [日本の作家 島田荘司]
<裏表紙あらすじ>
一人息子が誘拐された。身代金の額はわずか十五万円。受け渡しの場所として山手線を指定され、警察側は完璧な包囲網を敷くが……。前後編の間に、都会の闇で蠢く人びとを活写した「ジャングルの虫たち」を挟む異色の犯罪小説。大胆なトリック、息をつかせぬ展開、繊細な人間描写が織りなす魅力に満ちた傑作。
御手洗潔でも、吉敷竹史でもない、ノン・シリーズです。
巻末の参考文献として「帝都東京・隠された地下網の秘密」 (新潮文庫) が挙げられていて、そういえば「帝都東京・隠された地下網の秘密」 も奇想だったし、島田荘司にぴったりかな、なんて思いながら、さて島田荘司はどう料理するんだろう、という興味も持って読みました。
山手線をめぐるトランシーバーのトリック(?)は、シンプルながら、いやシンプルゆえに効果的で、誘拐ミステリにおける大きなポイント、身代金受け渡しの技が冴えています。シンプルすぎて警察は気づくんじゃないの? なんて負け惜しみを言いたくなるくらい。
ただ、島田荘司のなかでも、テーマというかメッセージが強くでた作品は苦手というか、乗りきれないものを感じるのが常で、この作品も冤罪や都市論がどーんと噴出する後半がちょっと個人的には残念でした。メッセージは直接表に出すのではなく、底流として響かせてもらった方がこちらに届くように思います。
「帝都東京・隠された地下網の秘密」 も、ミステリ部分というよりは、このメッセージの部分に組み込まれていて、ちょっと消化不良かなと感じてしまいました。
途中で「ジャングルの虫たち」という作品をはさんで前後編に分かれている構成も狙いがピンときませんでした。「ジャングルの虫たち」のファンタジーっぽい作風は決して嫌いではないのですが...
1冊全体を通して、要素要素はあるのですが、それぞれが響き合ってハーモニーを奏でるまでには至らず、島田荘司らしい詩的なイメージは不発だったようで、なんとも惜しいな、と思いました。
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