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小袖日記 [日本の作家 さ行]


小袖日記 (文春文庫)

小袖日記 (文春文庫)

  • 作者: 柴田 よしき
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2010/07/09
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
上司との不倫に破れて自暴自棄になっていたあたしは、平安時代にタイムスリップ! 女官・小袖として『源氏物語』を執筆中の香子さまの片腕として働き、平安の世を取材して歩くと、物語で描かれていた女たちや事件には意外な真相が隠されていた――。ミステリーをはじめ幅広いジャンルで活躍する著者の新境地。

この「小袖日記」の作者柴田よしきさんも、非常に作風の幅が広い作家で、この作品の題材は、源氏物語。
平凡な(?)女性会社員が源氏の世界に、というすごい設定です。
時代物、というとやはり時代考証がたいへんだと思います。源氏物語も当然詳しい方がいらっしゃいますし、「平安時代はこんなんじゃなかった」「当時の貴族はこうだったはず」と、とかくいろいろと難点を挙げる方がおられるものですが、この作品には、そういう指摘は通用しません。
開始早々に「元の世界の千年だか千二百年だか前、という単純な話ではないというのは確かなようだ。つまり、タイムスリップしたわけではなくて、別宇宙の小袖という女性と肉体を交換してしまったらしい」(P22)、「どうもここはあたしの本来の時代の過去にあたる世界ではなく、微妙にずれているらしい」(P23) と説明されていて、タイムスリップみたいなことが起こって(ということなので、引用したあらすじはタイムスリップと明記しているのでちょっと不正確ですね)、主人公あたしの意識が小袖という当時の女官(女房)の体に乗っている、という段取り(?)になっているからです。
どんなに現実の平安時代との違いを指摘しても、「別宇宙の平安時代はこうだったんだ!」と作者は言い張ることができます。さらに、源氏物語そのものと、エピソードのモデルとなった人物、事実とは相違して当然でもあり、かなり自由な立ち位置でストーリーを展開させることができます。
源氏の世界を借りていながら、考証から逃れることができる、ちょっとずるい手を編み出しておられます。
そのおかげもあってか、「源氏物語かあ、重厚そうだなぁ」と敬遠する必要はありません。きわめて軽快、軽妙に話は進んでいきます。そのぶん、格調高くもなく、雅(みやび)な感じは薄くなってしまっていますが、親しみやすくてよいのではないでしょうか。
平安時代の暮らしぶりも、ちゃんと読者に届いてきます。「あたし」という現代人の目を通っているから、すんなり理解できます。
源氏物語とはずれた世界、という設定であっても、やはり源氏物語を読んでいたほうが楽しめると思います。ぼくは学校の古文の授業で読んだっきりなので、ほとんどの話を知りません。知っていれば、作者の解釈とか発想を、原文と照らし合わせて味わうことができたと思います。
ミステリでは、岡田鯱彦「薫大将と匂の宮」 (扶桑社文庫)、 長尾誠夫「源氏物語人殺し絵巻」 (文春文庫)、森谷明子「千年の黙 異本源氏物語」 (創元推理文庫)なんか読んだときに、源氏物語を一度通読すべきかなぁ、と思うのですが、次のミステリを読むのに忙しくて、手が出ません...
それでも十二分に楽しめました! 源氏だからと敬遠せず、手に取ってみてください。
タグ:柴田よしき
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