おやすみラフマニノフ [日本の作家 中山七里]
<裏表紙あらすじ>
第一ヴァイオリンの主席奏者である音大生の晶は初音とともに秋の演奏会を控え、プロへの切符をつかむために練習に励んでいた。しかし完全密室で保管される、時価2億円のチェロ、ストラディバリウスが盗まれた。彼らの身にも不可解な事件が次々と起こり……。ラフマニノフの名曲とともに明かされる驚愕の真実! 美しい音楽描写と緻密なトリックが奇跡的に融合した人気の音楽ミステリー。
第8回『このミス』大賞を受賞したデビュー作「さよならドビュッシー」 (宝島社文庫)に続く、岬洋介シリーズ第2弾です。「さよならドビュッシー」の感想はこちら。
「さよならドビュッシー」のときにも書きましてが、やはり音楽シーンが長所ですね。今回はヴァイオリン。
楽器はまったくやらず、音楽についてもまったく知見はありませんが、ぐんぐん引き込まれる書き方です。
文章で音楽を感じさせてくれます。
どういう曲を背景にした物語なのかを実際に知りたくなったので、巻末にある<参考CD>というコーナー(?)に挙げてあったCDのうち、2枚を買っちゃいました。
と |
です。
殊に、
「科学や医学が人間を襲う理不尽と闘うために存在するのと同じように、音楽もまた人の心に巣食う怯懦や非情を滅ぼすためにある。確かにたかが指先一本で全ての人に安らぎを与えようなんて傲慢以外の何物でもない。でも、たった一人でも音楽を必要とする人がいるのなら、そして自分に奏でる才能があるのなら奏でるべきだと僕は思う。それに音楽を奏でる才能は神様からの贈り物だからね。人と自分を幸せにするように使いたいじゃないか」
という岬のせりふに導かれて行われる、集中豪雨の際の避難所での演奏シーンは、本当に素敵です。
主人公であるボク、城戸晶が、岬洋介の指導(?)で成長していく成長物語としての筋が一本通っていて、すっきり読めます。
ミステリとしては、やはり前作に続き軽いですが(特に、あらすじにもある完全密室からのチェロ、ストラディバリウス盗難事件については拍子抜けというか、あまりにも凡庸なトリックで、その堂々とした臆面のなさには逆に虚を突かれます)、ストーリーの組み立てとして、成長物語としての性格に寄り添ったものになっているので、これでよいのだと思いました。うん、楽しい。
今回も、登場人物の位置づけを相応に設計図を引いて書かれています。
タイトルに使える作曲家は、まだまだ無数にいますので(!)、ぜひぜひ、続編を次々と書いてほしいシリーズです。
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