ウォッチメイカー [海外の作家 ジェフリー・ディーヴァー]
<裏表紙あらすじ>
“ウォッチメイカー”と名乗る殺人者あらわる。手口は残忍で、いずれの現場にもアンティークの時計が残されていた。やがて犯人が同じ時計を10個買っていることが判明、被害者候補はあと8人いる――尋問の天才ダンスとともに、ライムはウォッチメイカー阻止に奔走する。2007年度のミステリ各賞を総なめにしたシリーズ第7弾。 <上巻>
サックスは別の事件を抱えていた。公認会計士が自殺に擬装して殺された事件には、NY市警の腐敗警官が関わっているらしい。捜査を続けるサックスの身に危険が迫る。二つの事件はどう交差しているのか!? どんでん返しに次ぐどんでん返し。あまりに緻密な犯罪計画で、読者を驚愕の淵に叩き込んだ傑作ミステリ。<下巻>
「このミステリーがすごい! 2008年版」第1位、かつ、週刊文春ミステリーベスト10 第1位。
これだけでは足りないかのように、日本冒険小説協会大賞〈海外部門〉も獲っています。
シリーズ第7作にして、引き続き、ずっとずっと絶好調です。
今回は、複数の事件が同時に展開します。
上に引用したあらすじでは、ストーリー展開がわかりにくいなぁ、と思っても、ツイストに次ぐツイストで、目まぐるしく展開するので、あらすじにまとめるのは至難の業です。
今回の敵も強敵です。
「十八世紀に時計をメタファーに使った哲学運動が起きた。神は宇宙のムーブメントを創り、ぜんまいを巻いて、時間が流れるようにしたというんだ。神は“偉大なる時計師(グレート・ウォッチメイカー)”と呼ばれた。信じられない話かもしれないが、この思想を信奉したものは大勢いた。おかげで時計師は聖職者に似た地位を得た」(P418)
というせりふがありますが、ウォッチメイカーという敵は、いってみれば「神」にもなぞらえられる存在なので、そりゃあ、強敵です。
勝手に考えたこの作品のポイントは2つ。
一つは、サックスの父親の事件とでも呼ぶべきエピソードが入っていること。これ、シリーズ読者には大変な事件です。だって、それをきっかけにサックスが警察を辞める、と言い出すのですから。
もう一つは、この作品から出てくる新キャラ、キャサリン・ダンス。彼女は、カリフォルニア州捜査局の尋問とキネシクスのエキスパート。キネシクスとは、証人や容疑者のボディランゲージや言葉遣いを観察し分析する科学、とのことです。これがおもしろい! なにしろ、ライムは鑑識の専門家、すなわち、物的証拠の権化ともいうべき存在で、いってみれば、ライムとダンスは相反する価値観(?) を象徴するもの、ともいえるからです。このふたりが協力関係を築きあげ、ともに闘う様子は、なかなかスリリングで(捜査内容もスリリングですが)、わくわくできます。
複数の事件が、どう収斂するのか、あるいは収斂しないのか。果たしてウォッチメイカーをどうやって追いつめるのか、ディーヴァーの力技を十分堪能しました。
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