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苦い雨 [日本の作家 樋口有介]


苦い雨 (中公文庫)

苦い雨 (中公文庫)

  • 作者: 樋口 有介
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2011/06/23
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
かつて追い出された会社のトラブルに首を突っ込んだ零細業界誌の編集長・高梨。カギを握る女は忽然と姿を消し、その行方を追ううちに、会社乗っ取りの策略が浮かび上がってくる。ついには高梨の家族にも危害が及んでしまい――。幻のハードボイルドミステリー。待望の文庫化。

引用した↑のあらすじに「待望の文庫化」とありますが、普通の文庫化とは違い、大きくリライトされています。
経緯は、「文庫版あとがき」に作者自身の手で書かれていますが、もともと単行本時には三人称「高梨」で書かれていたものを、一人称「おれ」に改稿されています。柚木草平シリーズとの差別化を狙って三人称にしていた、ということですが、混同することはないだろうと文庫化を機に一人称にしたようです。
樋口有介の作品は、ごくごく一部の例外を除いてすぐに単行本でも買っていたので、本書も単行本刊行時(1996年)に既読です。
しかし、おそろしいくらい、中身を覚えていませんでしたね。改稿のせい、ではありません。こちらの記憶力のなさ、が原因です。
でも、いいのです。樋口節を二度楽しめたのですから。こんな至福のとき....
そして、読み比べたわけではありませんが、一人称の方が、樋口節は似つかわしい。

個人的には、樋口有介はデビュー作の「ぼくと、ぼくらの夏」 (文春文庫)からの大ファンです。
なによりも、文章が素敵だと思うのです。この文章に浸るためなら、単行本も惜しくない。
「ぼくと、ぼくらの夏」 自体、当時あったサントリーミステリー大賞の読者賞というのが納得できず、どうして大賞じゃないんだろう、と勝手に悔しがっていました。もちろん、読者賞だって立派なのですが、大賞というのがあれば、やっぱり大賞を獲ってほしいですよね。そのときの大賞受賞作が「漂流裁判」 (文春文庫)で、小説としては立派なのかもしれませんが、ミステリとしてはつまらないなぁ、なんて不遜な感想を抱いていただけに(つまらない、なんてネガティブなことをいうので一応当時そう考えた理由を書いておきますと、「漂流裁判」 は法廷が舞台となって、くるくると事件の様相が変わるところに醍醐味があるのですが、その変わり方が、ミステリらしく謎をめぐって変化するというよりは、登場人物が次々となんの仕掛けも、ミステリらしい思惑もなく証言を変容させていくために事件の様相が変わっていくだけにすぎず--題材がレイプ事件で、当事者以外に目撃者もおらず、まあ、言ったもん勝ち、みたいな感じのストーリーなのです--、ミステリ的な趣向というよりは感情の垂れ流しのように思えたのです)、一層、「ぼくと、ぼくらの夏」 を評価してほしかった、と強く強く感じたものです。選評なんかを読むと、手垢のついた真相に難あり、といわれたようですが、それをどう見せるか、が勝負でしょ! なんて憤っていました。

できれば、主人公が若者であった方がよいと思いますが(それくらい、「ぼくと、ぼくらの夏」 の印象が鮮烈なのです)、中年男でも堪能できました。
事件の構図が古典的なことをマイナスにとらえる読者もいるように思いますが、いやいや、それが良いのですよ。

ぜひぜひ多くの方に、樋口有介を読む楽しみを味わっていただきたいです。




タグ:樋口有介
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