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モーダルな事象 ― 桑潟幸一助教授のスタイリッシュな生活 [日本の作家 あ行]


モーダルな事象―桑潟幸一助教授のスタイリッシュな生活 (文春文庫)

モーダルな事象―桑潟幸一助教授のスタイリッシュな生活 (文春文庫)

  • 作者: 奥泉 光
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2008/08/05
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
大阪のしがない短大助教授・桑潟のもとに、ある童話作家の遺稿が持ち込まれた。出版されるや瞬く間にベストセラーとなるが、関わった編集者たちは次々殺される。遺稿の謎を追う北川アキは「アトランチィスのコイン」と呼ばれる超物質の存在に行き着く……。ミステリをこよなく愛する芥川賞作家渾身の大作。

奥泉光は芥川賞作家ですが、このミステリーがすごい! もランクインするミステリー作家でもあります。
「グランド・ミステリー」 (角川文庫)「このミステリーがすごい! (’99年版)」第7位、
「シューマンの指」 (講談社文庫)「このミステリーがすごい! 2012年版」第5位。
でも、読んだことはありませんでした。
「グランド・ミステリー」 (角川文庫)は、単行本が出た年に、このミステリーがすごい! にランクインしたこともあり、思い切って買ったんですが、自分が読む前に知人に貸したっきり返ってこず、読まずじまい...
というわけで、この「モーダルな事象―桑潟幸一助教授のスタイリッシュな生活」 が初めての奥泉光作品です。ちなみに、「このミステリーがすごい!  (2006年版)」第17位。

芥川賞受賞作家だから、というわけではないとは思いますが、文章がずっしり感じられます。稠密な印象。
この目の詰まった文章で、悠然とミステリーが語られていきます。
探偵役は、ジャズミュージシャンの北川アキと編集者の諸橋倫敦。元夫婦、という不思議な男女二人組です。タイトルにもなっている、桑潟幸一助教授(クワコー)は、名探偵ではなく、狂言回し。
途中「当初、猿渡殺害の栄えある真犯人に北川アキが指名したのが、桑潟幸一麗華女子短大助教授であったわけだけれど、事態の推移の中で、とてもそんなタマじゃないと思うに至った。役者が違った。」「他に登場人物がいないので犯人に指名しただけの話である。」「桑潟は全体に小さかった」(405ページ)なんて記述が出てきます。
そうなんです。ミステリー部分は、桑潟が小物であることを照射するために使われています(笑)。
この部分だけでもおわかりいただけるように、ユーモアたっぷりです。ただ、そのユーモアも大げさなものではなく、泰然とした鷹揚な感じ。文章とマッチした、大人の作品、といった気配。
そもそもクワコーが発掘することになる童話作家溝口俊平の作品が、どう考えてもだめだめっぽいのに、話題になり、ベストセラーになる、という展開自体が、シニカルな笑いを誘う設定ですし、奥泉光の余裕たっぷりの作品です。
文学者がミステリーらしい作品を書くと、「ミステリーなんてこんなもんでしょ」とある種見下したような手抜き感があったりするものですが、この「モーダルな事象―桑潟幸一助教授のスタイリッシュな生活」 にはミステリーとして大きく斬新なポイントはないものの、奥泉光にはこういった手抜き感がなく、楽しく読めました。

しかし、クワコーの生活のどこが「スタイリッシュ」なんだぁ!!


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