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失踪者 [日本の作家 あ行]


失踪者 (文春文庫)

失踪者 (文春文庫)

  • 作者: 折原 一
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2001/11
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
ノンフィクション作家・高嶺隆一郎は真犯人に直接インタビューする手法をとっていた。埼玉県の久喜市で起きている連続失踪事件を調査するなかで、15年前の同様の事件との関連性が浮かび上がる。月曜日に女が消えること、現場に「ユダ」「ユダの息子」のメモが残されること。犯人はまた「少年A」なのか?


「冤罪者」 (文春文庫)に続く、「~者」シリーズ第2弾です。
解説で西上心太さんが呼んでいるように、折原一といえば<叙述トリックの雄>。
「異人たちの館」 (講談社文庫)以降顕著な、多重視点、多重文体を用いています。過去の事件と現在の事件双方を描くので、一層ややこしく。

叙述トリックというと、そのトリックそのものが作品のメインの仕掛けとなって読者のサプライズを誘うものを連想しますが、折原一の多重文体の作品の場合、叙述トリックはメインの仕掛けというよりも、犯人の意外性を演出するパーツとなっているような印象を受けます--すみません、うまく説明できていません。
なんと説明すればよいでしょうか。
叙述トリックを使った作品は多くの場合、叙述トリックを使っていることが作品の価値というか、その叙述トリックを説明すれば作品を説明したことになるような、大技系になっていると思います。作中人物が仕掛けるトリックではなく、作者が読者に仕掛けるトリックなので、それに賭けるような構成になりやすいのだと思います。
ところが多重視点の折原一の作品は、多重視点のピースのひとつに叙述トリックが入り込むかたちなので、叙述トリックを見抜けたとしても事件の全容、作品の全貌をつかんだことにはなりません。叙述トリックが複数組み合わさっていることもあります。
その意味では、一般の叙述トリック作品の醍醐味である背負い投げのような反転はなく、局地戦なのですが、その分事件の構図が綿密に作り込まれている様子を楽しむことができます。

あるいは、こういう言い方ができるかもしれません。
一般的に叙述トリックは作者が読者に仕掛けるトリックなので、読者には意外でも作中人物にとっては真相・真犯人が意外でない可能性が高いのに対し、多重視点の折原一の作品の場合、作中人物にも意外な真相が構築されている、と。

この作品では、少年犯罪と少年法がテーマとして取り上げられていて、若干手垢のついたテーマのようにも思えますが、視点と時間を入り組ませ、これまた意外性の演出に一役買っています。

実は、「異人たちの館」 (講談社文庫)「沈黙の教室」 (双葉文庫)といった多重視点の先行作はあまり楽しめなかったというか、感心しなかった記憶があるのですが、この「失踪者」 (文春文庫)はなかなか楽しめました。
叙述トリックという思い込みで、背負い投げの強い衝撃がなかったので不満に思ったのかもしれません。今読み返してみるといいのかも。そんなことを考えました。


<2023.9.5追記>
上で
「冤罪者」 (文春文庫)に続く、「~者」シリーズ第2弾です。
と書いていますが、間違っています。
「冤罪者」以前にも、「誘拐者」 (文春文庫)「遭難者」 (文春文庫)がありましたし、再文庫化にあたって改題されて「~者」となった「毒殺者」 (文春文庫)「愛読者」 (文春文庫)といった例もあります。
ちょっとこうなってしまっては何作目と数えるのは無理ですね......



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