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ある少女にまつわる殺人の告白 [日本の作家 さ行]


ある少女にまつわる殺人の告白 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

ある少女にまつわる殺人の告白 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 佐藤 青南
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2012/05/10
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
第9回『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞作品。長崎県南児童相談所の所長が語る、ある少女をめぐる忌まわしい事件。10年前にいったい何が起きたのか――。小学校教師や小児科医、家族らの証言が当時の状況を明らかにしていく。さらに、その裏に隠されたショッキングな真実も浮かび上がる。関係者に話を聞いて回る男の正体が明らかになるとき、哀しくも恐ろしいラストが待ち受ける。


引用したあらすじにもありますが、第9回『このミステリーがすごい! 』大賞優秀賞作品です。
ちなみにこの時の大賞は乾緑郎「完全なる首長竜の日」 (宝島社文庫)(ブログの感想へのリンクはこちら)。優秀賞の同時受賞作に喜多喜久「ラブ・ケミストリー」 (宝島社文庫)(ブログの感想へのリンクはこちら)があります。

あらすじで見当がつくと思いますが、扱っているのが児童虐待。苦手なんですよね、この手の話。
過去をインタビューで探っていく、という形式をとっていまして、メインとなるのは児童相談所長。それに、関連するさまざまな人による証言が積み重ねられます。
ある少女=長峰亜紀をめぐって殺人が起こったことは、タイトルでも堂々と (?) うたわれていますが、いったいどういう事件だったのかは、なかなか明らかになりません。「めぐる」という表現なので、被害者は長峰亜紀その人ではないのだろう、という予測は立ちますが、現在生きているのかどうかも、なかなかわかりません。
この辺りの構成と、語り口はうまいな、と思いました。苦手なテーマであることが予想できても、ちゃんと読み進むことができました。
ラスト近くでようやく明らかになる事件とその犯人像は、残念ながら平凡というか、予想の範囲内というか、ミステリが好きな人ならすぐに見当がつくものでした。その意味では、インタビュー形式という「古い革袋」の中にはいっていたものは、解説で茶木則雄さんが激賞している「新しい酒」とはいえません(題材の児童虐待も、手垢のついたテーマと言えます)。
またラストシーンも、後味の悪さも含めて本書の売りのひとつだと思いますが、これも意外性にあまりに乏しい。

と、まあ否定的なコメントを連ねてしまいましたが、けれど、けれど、犯人像はありふれていたものの、事件の構図=犯人の考えたことは、非常に興味深い着眼点だと思いました。
作中ではあっさり扱われているのですが、これ、結構新しい切り口ではないでしょうか。似たような前例がないとはいいませんが、このテーマと組み合わせるとインパクトありますよ。
ここに狙いを絞って作品を構成していたら、ずいぶん違った読後感になったような気がします。

というわけで、苦手なテーマのわりには読みやすかったですし、面白い切り口も見せてもらえたので、次作に期待を抱かせてくれた作家&作品でした。

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