サウサンプトンの殺人 [海外の作家 F・W・クロフツ]
<裏表紙あらすじ>
セメントの新製法を探るべくチェイル社に侵入したジョイマウント社の二人は、見咎めた夜警をノックアウトし、間の悪いことに死なせてしまう。遺体を運び出し自動車事故に偽装するが、素人の悲しさ、首席警部フレンチの目を誤魔化せるわけもない。更にはチェイル社の首脳陣にねじこまれ、事態は新たな局面を迎える。恐喝まがいの要求を呑むしかないのか。ジョイマウント絶体絶命!
創元推理文庫の2011年の復刊フェアで復刊された作品です。
表紙をめくったところにある扉に書かれたあらすじを引用します。
セメント会社ジョイマウントの取締役ブランドと化学技師キングは、暗闇に横たわる死体を前に立ちすくんでいた。経営危機に陥った社を救うためにライバル会社の工場に忍び込み、セメントの新製法を盗み出そうとした二人だったが夜警に見つかってしまい、これをなくり倒して殺してしまったのだ。彼らは自動車事故を偽装して死体の始末をはかるが、主席警部フレンチが、この事故に殺人の匂いをかぎとらないはずはなかった! しかしさしもの彼も、犯罪を隠蔽せんとする企業の策謀の厚い壁に行手をはばまれるのだった。構成の妙が冴える倒叙推理!
こちらの方がしっくりきます。
以前、「フレンチ警部とチェインの謎」 (創元推理文庫)の感想のとき(ブログへのリンクはこちら)に、「フレンチ警部ものの構成としても変わっていて、前半にはフレンチ警部は出てきません」と書きましたが、この「サウサンプトンの殺人」 でも同様の構成をとっています。さらに「フレンチ警部と毒蛇の謎」 (創元推理文庫)もそうだったし(ブログへのリンクはこちら)、ひょっとしてフレンチ警部ものはこちらが普通だったりして!?
なので、倒叙もの、のようにスタートします。(為念ですが、「フレンチ警部とチェインの謎」は倒叙ものではありません)
産業スパイを試みる視点人物であるブランドがなかなか良い奴っぽいところがポイントでしょうか。
そしてフレンチ警部の視点となり、物語のなかほどで再びブランドに視点が戻ります。
ここがおもしろいところで、ブランド自身思いがけない事件が起こるのです。
最後に再びフレンチ警部の視点になって、解決を迎えます。
この視点のキャッチボール(?) が楽しかったですね。普通の倒叙ミステリからのずれ方が心地よい。
あとひとつ、原書は1934年発行のようですが、企業間の競争を描いているところが当時としては新しかったのではなかろうかと思います。
これが、大昔の話なのに、なんだかわくわくできるんです。
企業の生き残りをかけた競争が、本格ミステリの作家から提示されている、というのが、意外なようで、それでいて妙にしっくりきます。
使われているトリックが現実感なかったり、あるいは使い古されたようなものだったり、フレンチ警部の捜査がつまずきはあっても妙に鋭く真相を射抜いたり、真相が最後の数ページであわただしく乱暴にまとめられていたり、と、ミステリとしての疵は簡単に指摘できますが、構成とテーマの新奇性には強く惹きつけられました。
昔はあまり好みではなかったクロフツですが、最近いいな、と思うようになりました。
東京創元社には、引き続き復刊を根気強く続けてほしいです。
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