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貴族探偵 [日本の作家 ま行]


貴族探偵 (集英社文庫)

貴族探偵 (集英社文庫)

  • 作者: 麻耶 雄嵩
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2013/10/18
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
信州の山荘で、鍵の掛かった密室状態の部屋から会社社長の遺体が発見された。自殺か、他殺か? 捜査に乗り出した警察の前に、突如あらわれた男がいた。その名も「貴族探偵」。警察上部への強力なコネと、執事やメイドら使用人を駆使して、数々の難事件を解決してゆく。斬新かつ精緻なトリックと強烈なキャラクターが融合した、かつてないディテクティブ・ミステリ、ここに誕生! 傑作5編を収録。

「2011本格ミステリ・ベスト10」第6位です。この年、第1位は「隻眼の少女」 (文春文庫)でしたから、2010年は麻耶雄嵩イヤーだった、ということでしょうか。
実はこの「貴族探偵」 という作品単行本で買って読んでいるのですが、また読んでみたくなりまして、実家に戻って探したのですが見つからず、文庫本を買って再読したものです。
初読時は、おもしろかったという感想はあったものの強い印象は残っておらず、今回まるで初見のように楽しみました。いやあ、おもしろかったですよ。当時、この面白さに強烈な印象を受けなかったなんて、体調でも悪かったのかな?

なにより、馬鹿馬鹿しいくらいの貴族っぷりがまずおかしい。
あまりにやんごとないので(?)、名前は名乗らず(確かに、本当に高貴なお方というのは、名前は名乗られないものと言いますが)、
「人は貴族探偵と呼ぶね」
と自分で言ってしまう始末。
それで、執事とかボディガード兼運転手とかメイドを引き連れ、探偵に乗り出してくる。
でも自分では動かず、捜査などは
「そんな労働をこの私がする必要はない。雑用は家人に任せればいいことだ。」
と執事などにやらせ、自分は紅茶を飲んでくつろぎながら美女をくどいている。
で、その報告を受けて推理くらいはするのかと思ったら、それも、労働は家人に任せる、と。謎解きも、執事やメイドがする次第。
これでも探偵なんですかねぇ? という設定が、とにかく馬鹿馬鹿しくてよい。
そのくせ正体(?)を詮索しようとすると
「これ以上詮索すると、以後は真っ当な生活を送れなくなるよ。君にも守るべき家庭があるのだろう」
なんて凄んでみせる。
本当、この人、何者ですか(笑)!?

ミステリとしての仕掛けも、さすが麻耶雄嵩。
集中の白眉はやはり第三話の「こうもり」ですが、それ以外も凝っています。
冒頭の倒叙っぽいシーンがミスディレクションとして機能する第一話「ウィーンの森の物語」、さる有名なトリックの強烈なアレンジを提示する第二話「トリッチ・トラッチ・ポルカ」、思わせぶりな見取り図がちゃんと解決に導いてくれる第四話「加速度円舞曲」、婿選びという構図から候補者三人全員が殺され、いったんAがBに殺され、BがCに殺され、CがAに殺された、なんて詰将棋の煙詰めに倣った「煙殺人」なんていうのを提示しておいてひっくり返してみせる第五話「春の声」(この煙殺人って笹沢左保の長編に前例があったように思います)まで、いずれも一癖も、二癖もある本格ミステリです。

で、「こうもり」です。これはほんとにすばらしい。
ネタバレになってはいけないので、↓ の方に折りたたんでおきます。

現代日本本格ミステリの傑作として、おすすめします。

P.S.
このブログを書くにあたって、参考にさせていただいたサイトのリンクを ↑ にこっそり(?) 忍ばせてみました。
そのサイトにはトラックバックをさせていただいています。



「こうもり」について


解説でも触れられていますが、「地の文で嘘を書いてはいけない」というのはミステリ、特に本格ミステリにとって非常に重いルールなんですが、すなわち大きなくびきとなって、ミステリ作家に立ちふさがるものなのですが、それを逆手にとってトリックに使うとは。
麻耶雄嵩としては以前にも使っているアイデアではありますが、うまいですね。
あからさまに、ぽーんと抛り投げるように書かれている部分があって、みんなあれっと気づいて変だなぁと考えながら読むと思うんですが、まさか、ね。こういう仕掛けとは思いませんよ。
ホームページでは「逆叙述トリック」と呼んでいる方がいます(こちらもネタばれしているところですが、リンクをはっておきます。こちら。)が、いい表現ですね。
第二話「トリッチ・トラッチ・ポルカ」のラストも、さりげなく第三話「こうもり」のミスディレクションに一役買っているのも、ポイント高いと思いました。

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