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震える牛 [日本の作家 あ行]


震える牛 (小学館文庫)

震える牛 (小学館文庫)

  • 作者: 相場 英雄
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2013/05/08
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
警視庁捜査一課継続捜査班に勤務する田川信一は、発生から二年が経ち未解決となっている「中野駅前 居酒屋強盗殺人事件」の捜査を命じられる。当時の捜査本部は、殺害された二人に面識がなかったことなどから、犯人を「金目当ての不良外国人」に絞り込んでいた。しかし「メモ魔」の異名を持つ田川は関係者の証言を再度積み重ねることで、新たな容疑者をあぶり出す。
事件には、大手ショッピングセンターの地方進出に伴う地元商店街の苦境、加工食品の安全が大きく関連していた。
現代日本の矛盾を暴露した危険きわまりないミステリー、連続ドラマ化と共に文庫化!


ベストセラーのようですね。
僕が買った文庫本の帯は、WOWWOW連続ドラマの告知がされていて、背表紙のところに「平成版『砂の器』誕生!」と書かれています。本屋でもかなり平積みされていました。
気になったので、買いました。
かなり酷評しますので、そういうのがお厭な方は飛ばしてください。

「砂の器」 〈上〉 〈下〉 (新潮文庫)は、松本清張の代表作の一つといってもよい名作ですが、それと比肩しうる作品なのか、といえば、大きな疑問で、松本清張もお安くなったものだ、とちょっと悲しくなりました。

扱われている題材は興味深いものが集められていまして、その意味で注目を集めるのは悪いことではないと思います。
ただ、上で引用したあらすじにある「大手ショッピングセンターの地方進出に伴う地元商店街の苦境、加工食品の安全」がほぼすべてでして、それ以上でもそれ以下でもありません。あらすじをご覧になって、想像する内容を超えるものではありません。
大企業のエゴっぽいことを指弾して、殺人事件を絡めれば社会派ミステリーは(お手軽に)できあがる、という考えでできている作品なのかと思いましたが、エゴの指摘すらうまくいっていません。
あらすじを読んだだけで見当がつくでしょうから、ネタバレというほどのことでもないので書いてしまいますが、肉屋からスタートしたスーパー・オックスマートを舞台とし、創業二代目である会長が辣腕を振るっていて、その会長は精肉フロアでよい肉を目にすると目を輝かせ、肉を愛でているといえるほどの人物である、という設定であるのに、肉を中心とした問題のある加工食品をそのスーパーが売る、というのはかなり無理があると思います。一応理屈はつけてありますが、納得感ありませんし、その理屈で通すつもりなら物語のトーンを変える必要があります(社会派ミステリーとして企業の行動を糾弾するトーンにふさわしくない理屈になっていますので)。
その理屈を認めるとしても、一度だけならまだしも繰り返し同じような粗悪品を売り続ける、ましてや販売を拡大するというのは考え難いのではないでしょうか。そういうキャラクター設定になっているようには思えませんでした。
「大手ショッピングセンターの地方進出」とかろうじてリンクさせ、トーンを維持するためのつながりは一応配してありますが、こなれていません。肉を愛している人物に、肉を裏切るような行為をさせるには、相当しっかりした理由、裏付けを用意しないとアウトで、会長のキャラクターをひっくり返すほどのものは用意されていません。

また、社会派ミステリーというにしては、事件の真相とこれらの社会的な問題が密接に結びついているかというとそうではないのです。これにもびっくり。タイトルのまっすぐさには正直感心(感動?)したのですが、それに象徴される事態と、加工食品の話はつながらないのです。要するにオックスマートを舞台に、バラバラな事象が起こっているという構図になっているのです。これではミステリの部分も、正直お粗末としか言えません。犯人決め手の凶器をめぐるエピソードも、作者は効果的だと思って仕掛けたのでしょうが、実際には決め手にならないでしょう。

さらに、警察内部のエピソードも、読後感を悪くするだけで、なにを狙ったものか正直理解に苦しみます。それだけ巨悪だ、と言いたいのかな? その割に明かされるのはせこい話なんですが...

扱われている題材はセンセーショナルでベストセラーになってもおかしくないな、というものですし、主人公である田川刑事とか、その家族や同僚の池本のキャラクターは好感が持てましたので、変にミステリーなど意識せず、また、あれもこれも一気に盛り込んだりせず、すっきりした経済小説を書かれてはいかがか、とそんなことを考えました。




タグ:相場英雄
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