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フランクフルトへの乗客 [海外の作家 アガサ・クリスティー]


フランクフルトへの乗客 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

フランクフルトへの乗客 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

  • 作者: アガサ クリスティー
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2004/10
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
パスポートとマントを貸してほしい――空港で出会った謎の女の申し出は、変わり者の外交官スタフォード・ナイを国際的陰謀の渦中へと巻き込んだ。彼を尾け狙う不気味な影、世界各地で頻発する暴動、そしてドイツ山中の巨大な城に棲む謎の老嬢……はたしてナイの運命は? 壮大なスケールで魅せるスパイ・スリラー。


この本、ハヤカワ文庫のミステリフェア2014ということで、「ミステリ・ワールドカップ開幕」という帯を付けて売られていました。
クリスティの未読本でしたので、いい機会と思って購入しました。
それにしても、「フランクフルトへの乗客」 は、スティーヴン・L・トンプスン「A‐10奪還チーム出動せよ」 (ハヤカワ文庫)や デイヴィッド・ベニオフ「卵をめぐる祖父の戦争」 (ハヤカワ文庫NV)、マイケル・バー=ゾウハー「ベルリン・コンスピラシー」 (ハヤカワ文庫NV)などと並んで欧州代表としてフェアに出されているのですが、クリスティの数多い諸作の中、そして幾多の名作群を押しのけて、どうして「フランクフルトへの乗客」 が選ばれたのでしょうね?

さておき、クリスティは時折スパイものを書いていますが、その1冊です。
クリスティの作品群の中では、スパイものはあまり高く評価されていません。確かに、綺羅星のような本格ミステリの傑作群には遠く及びませんし、一方で、一般のスパイものを期待すると肩すかしというか、期待外れになるとは思いますが、これが味があるんですよね。
このあたりを作者も意識していたのでしょうか。
本書にはまえがきがあって、
「この物語の本質はファンタジーです。それ以上のものだというつもりはありません。
しかし、その中でおこる大部分のことは、今日の世界でおこりつつあること、あるいはおこる兆しのあることばかりです。
これはありえない話ではありません――ただファンタスティックな物語だというにすぎないのです。」
と述べています。(ここの「ファンタスティック」という語は、日本語訳としては和製英語の「ファンタジック」と訳したほうが通りがよかったような気がします)
そして、副題に、「コミック・オペラ」と付してあります。

あらすじにもありますが、物語の発端が、いきなり現実離れしていますね。
パスポートを貸してほしいといわれて、貸す人、いないですよね(笑)。
このあたりを含めたゆったり感こそが、クリスティのスパイものを読む醍醐味だと思うんです。
この作品、原書は1970年発表なんですね。
クリスティは1890年生まれとのことですから、なんと御年80歳のときの作品。
ちょっと失礼な言い方かもしれませんが、80歳にもなって、こんなファンタジックな作品をものにするんですから、なんと自由な発想をお持ちだったのでしょうか。あらためてクリスティというのはすごい人だったんだなぁ、と、感銘を受けました。
展開も中身も、無邪気というか、すごく若い発想なんですよね。
結構深刻で、恐ろしいことが描かれているのですが、どことなくやわらかでふんわりした印象。実はこういう作風を受け継いでいるのが、意外と赤川次郎なんじゃないかと睨んでいるのですが....

解説を、「エマ」 (Beam comix)の漫画家森薫がマンガで書いているのですが、これもなかなか楽しかったです。
ここで森薫が書いているような楽しみ方ができるのも、クリスティの魅力の一つですね。

さて、だいぶ残り少なくなってきたクリスティ作品。ゆっくりと、大切に読んでいきたいです。


<おまけ1>
まえがきに、どこでアイデアを仕入れるのか、と聞かれると答えに困ると書いてあるのですが、あれ? お風呂でリンゴ齧って考えるんじゃなかったの?(笑)


<おまけ2>
同じくまえがきのところで
「仕入れ先はたいてい陸海軍ストアですね」
というくだりがあります。
これ、Army & Navy Stores というデパートのことです。
Army & Navy 懐かしいなぁ、と思わずにっこりしてしまいます。
日本語に無理やり訳してありますが、同列に、ハロッズやマークス・アンド・スペンサーもまえがきには出てきます。発祥は陸海軍の人たちであっても1970年ごろには普通のデパートですから、訳すとしたら、固有名詞化しているので “アーミーアンドネイビー” とカナ書きすべきかと思います...


原題:Passenger to Frankfurt
著者:Agatha Christie
刊行:1970年




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コメント 2

Kun-KunBEAR

私の中でクリスティといえば「オリエント急行殺人事件」!!
何度読んでもまた読み返したくなり、ボロボロの古本と化してます。
晩年の作品は読んでないものもたくさんあるので
これも読んでみたいと思います(^o^)
先日「夜歩く」読みました〜♪
by Kun-KunBEAR (2014-05-15 19:21) 

31

Kun-KunBEAR さん、コメントありがとうございます。
クリスティは、評価が高くなくてもやはり楽しめますよね。
「オリエント急行の殺人」は名作ですねぇ。あまりに有名すぎて読む前に結末を知ってたりしました....
by 31 (2014-05-15 20:25) 

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