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天帝のはしたなき果実 [日本の作家 は行]


天帝のはしたなき果実 (幻冬舎文庫)

天帝のはしたなき果実 (幻冬舎文庫)

  • 作者: 古野 まほろ
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2011/10/12
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
勁草館高校の吹奏楽部に所属する古野まほろは、コンテストでの優勝を目指し日夜猛練習に励んでいた。そんな中、学園の謎を追っていた級友が斬首死体となって発見される。犯人は誰か?吹奏楽部のメンバーによる壮絶な推理合戦の幕が上がる! 青春×SF×幻想の要素を盛り込んだ、最上かつ型破りな伝説の本格ミステリ小説が完全改稿され文庫化。


どこにも書いてありませんが、第35回メフィスト賞受賞作(2007年)です。
もともと講談社ノベルスで出たものですが、この文庫化の際に完全改稿された、ということです。作者の用語でいうと、新訳、と呼ぶようですが。
いろいろと話題の多い作品、という認識で、興味はずっと持っていたのですが、長らく文庫化されていませんでしたし、いざ文庫化されても分厚いし、ちょっとひるんでいました。
読んでみた感想は、批判する人のいうことも、絶賛する人のいうこともわかるなぁ、というところ。

良くも悪くも、まず文体が注目を集めるところでしょう。そして、世界観。
乱発されるルビ。それも日本語、英語、ドイツ語、フランス語....と多言語のルビ。正直、読みにくいですね。
舞台は1990年(平成2年)の日本帝国の勁草館高校。パラレルワールドの学園、です。プロット上のパラレルワールドである必要性は今一つわかりませんでしたが、そういう設定を導入したことで、今の日本ではピンとこない貴族階級が登場し、高踏的な学園の雰囲気を高めることには成功していると思います。
この舞台と、文体は、読みにくいとはいえ、マッチしています。
主人公(?) は作者と同名の古野まほろ。
コアラ似(?) の醜男でこころを病んでいるという設定なんですが、こいつが、モテモテ、というか、あっちでもこっちでも人気者で、その理由がよくわからない。性格も魅力が十分とは思えなかったのですが...うーむ。シリーズ作でこの謎、解けるのでしょうか? ただ、まほろが周りに有形無形に支えられて、世界と対峙する姿は成長物語、という構図になっていると思いました。
吹奏楽部、という設定で、ペダンティックなやりとりは読みにくいし、ややげんなりするところもあるものの、コンテストへ向けての猛練習のエピソードは、とても楽しめました。
帯に「青春 × SF × 幻想、究極の本格ミステリ!」 とありますが、まず、青春小説としていい感じです。

ミステリの部分は、おそらくは推理合戦がポイントなのでしょう。
さすがに、「虚無への供物」(上) (下) (講談社文庫)「匣の中の失楽」 (双葉文庫)と比べるのは無理がありますが(もっとも、この2作にも途中相当怪しい推理が紛れ込んだりしますけどね)、心意気やよし、で、ミステリ好きには楽しい部分ですよね。
2度にわたって挿入される読者への挑戦もまた愉し。

で、ラスト。
文体、世界観と並んで批判を浴びている部分はここなんだろうなぁ、と想像しますが、なんでもありのメフィスト賞受賞作なんですから、これは有りなんじゃないでしょうか。
巻頭に置かれた「帝国幻冬劇場令」なるものに、
「月光ゲーム」 (創元推理文庫)
「黒死館殺人事件」 (河出文庫)
「虚無への供物」(上) (下) (講談社文庫)
「匣の中の失楽」 (双葉文庫)
「学生街の殺人」 (講談社文庫)
「第二ファウンデーション」 (ハヤカワ文庫SF)
という先達の書名が掲げられているのですから、このラストもフェアというか、想定の範囲内であるべきなんでしょうね。--講談社ノベルス版にこの勅令が掲載されていたかどうかは知りませんが...
表紙イラストにも、青い薔薇が描かれていることですし、これもまた一興ということで。

ということで、読みにくかったものの、意外と楽しみましたよ。
それにしてもこの作品、学生とか生徒とか呼ばれていた若い頃に読みたかったなぁ。あの頃だったら、夢中になっていたかも、そんな気がする作品です。



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