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闇に香る嘘 [日本の作家 下村敦史]


闇に香る嘘

闇に香る嘘

  • 作者: 下村 敦史
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/08/06
  • メディア: 単行本


<帯裏表紙側あらすじ>
27年間兄だと信じていた男は何者なのか?
村上和久は孫に腎臓を移植しようとするが、検査の結果、適さないことが分かる。和久は兄の竜彦に移植を頼むが、検査さえも頑なに拒絶する兄の態度に違和感を覚える。中国残留孤児の兄が永住帰国をした際、既に失明していた和久は兄の顔を確認していない。竜彦は偽者なのではないか? 全盲の和久が、兄の正体に迫るべく真相を追う――。
第60回江戸川乱歩賞受賞。


単行本です。
第60回江戸川乱歩賞受賞作。今年の乱歩賞作品です。
このブログでは基本的に読んだ順に感想をアップしていっているのですが、乱歩賞は例外。この作品は順番を飛ばして、先に感想を書きます。

プロローグは、横浜港へ向かうコンテナ船。中国から来る密入国者団がコンテナで運ばれています。
その後話は一変して、主人公和久のストーリーになります。この主人公、満州からの引き揚げ者だったという経歴で、その後41歳の時に失明。現在70歳近くになった老人です。
語り手が全盲というのは、かなり難しい設定ですね。
全盲になるという衝撃の深さは想像するしかないのでこんなことを言っては叱られるかもしれませんが、この主人公、結構困ったちゃんというか、まわりに当たり散らす嫌なやつと感じさせるエピソードがあちこちに。離婚はされるし、娘にもどうやら愛想を尽かされ、母親と兄のところにも疎遠になっている様子。
全体として、物が見えない生活を、いろいろと提示してくれていまして勉強になります。目の見えない人の生活が少しは分かったかな?
そういえば最近、盲導犬や白い杖をついた人を狙った卑劣な事件が起こっていますが、この小説で感じ取れる目の見えない人を取り巻く困難を考えると、いっそうやるせない気分になります。

メインとなる謎は、一九八三年に訪日調査で再会を果たした兄は本物か、というもの。
それを目の見えない主人公が探るというのだから、かなり困難が想定されますが、わりとするすると証人をたどり、話を聞くことができます。それでも、目が見えないというハンデがありますので、いろいろと問題も生じる。このあたり読みどころだと思いました。
謎の「無言の恩人」が主人公の窮地を救ってくれたりします。この恩人の正体も謎の一つ。
点字を使った暗号も、乱歩賞だったら点字の暗号が楽しいよね、とニヤリとできます(あっけないですが)。

この作品の最大の長所と思われる結末は、やはりすっきりしていてGOODです。
巻末に収録されている京極夏彦の選評から引用しちゃいます。
「受賞作はたった一つのアイデアで組み上げられた作品である。しかしそのアイデアなしには決して書き得ない世界を意欲的に描いている。物語もキャラクターも、表現も展開も、些細なディテールまでもがその一つにアイデアによって支えられており、またそのすべてが伏線となっている。しかもそれらは見事に回収される」
気になるところもないではないですが(たとえば、主人公が精神安定剤を飲んでいてときどき記憶がおかしくなるという設定になっています。ある程度の必然性はあったのだと思いましたが、この設定なくても大丈夫では? 余計な設定のように思えます。もうひとつ謎を解く手がかりに視覚以外の目が見えない人だからこそ気づくようなものが使われていないのはちょっと残念でした)、非常に美しいミステリを読んだ、という印象です。
もう一つ、この作品、殺人にまみれていないのもよかったです。


<蛇足1>
199ページに、母親のセリフで
「アホな。親が子を恨むもんかね」
というのがあります。なかなかいいセリフなのですが、岩手の老婆が「アホ」と普通に言うでしょうか?
その少し前には
「馬鹿言うな。息子に負担かける母親がどこにおる」
と言っていて、「アホ」ではないんですが。
実はこの母親、別の箇所でも「何をアホな」と言っていて、実は関西出身?

<蛇足2>
ところでこの作品、ゴダードの「闇に浮かぶ絵」 〈上〉〈下〉 (文春文庫)と似ている、きつい言い方だとパクリだ、という指摘がネットでされているようですが、「行方不明だった兄が帰ってきた、本物か?」 という、兄は本物かどうか、というところが似ているだけではないでしょうか? 
小説の発想というか、組み立てが全然違うようですので、この「闇に香る嘘」はそういう批判を受けるような作品ではないと思います。


<2016.8.21追記>
今月文庫化されたので書影を。

闇に香る嘘 (講談社文庫)

闇に香る嘘 (講談社文庫)

  • 作者: 下村 敦史
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/08/11
  • メディア: 文庫



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ミシェル・デマルケ

31さん、ときどきミシェルのブログに訪問してください
まして、そしてniceを付けてくださいまして、大変大変
ありがとうございます。
あと実はこっそりと、31さんの読書量ってすごいなぁ
とすごく感心していました。

あとあと、「闇に香る嘘」ですが、31さんのブログ記事
を読んでけっこう興味を持ちました。頭の中の、そのうち
読まなきゃ本のリストに書き加えさせて戴きます。

ついでに「アホ」が気になったというお話についてひと
こと。「アホ」とか「・・やねん」くらいは全国の誰でもつい
使っちゃう可能性があるのでは?
・・・と個人的には思いますが、どうでしょう。
という話じゃなくて、母親のキャラからすると「アホ」を使
うのは不自然だ・・・ってこと? そういう違和感的なこ
とならミシェルも感じることはあります。大ベテランの作
家じゃない場合に特に。

よ、余計なおしゃべりでした、すみません。それでは、
また!

by ミシェル・デマルケ (2014-09-19 10:12) 

31

ミシェルさん、どうもありがとうございます!!
「アホ」についても、ご指摘ありがとうございます。
テレビの影響もあるでしょうし、ご指摘の通り、最近は「アホ」を使う方も全国的に多くなっているんでしょうね。関西以外の人も、日常生活でぽんぽんと普通に出てくるレベルの単語までなっているんでしょうか。でも小説なんかで触れると、「アホ」はこちらの固定観念なのか、どうしても関西の色を感じ取ってしまって違和感を覚えることが多いです。
今回も東北地方の老婆、しかも、満州から引き揚げてきた、当時からすでに大人だった年齢層となると、??? となって、ついブログに書き込んでしまいました。


by 31 (2014-09-20 00:05) 

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