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エアーズ家の没落 [海外の作家 あ行]


エアーズ家の没落上 (創元推理文庫)エアーズ家の没落下 (創元推理文庫)エアーズ家の没落下 (創元推理文庫)
  • 作者: サラ・ウォーターズ
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2010/09/18
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
かつて隆盛を極めながらも、第二次世界大戦終了後まもない今日では、広壮なハンドレッズ領主館に閉じこもって暮らすエアーズ家の人々。かねてから彼らと屋敷に憧憬を抱いていたファラデー医師は、往診をきっかけに知遇を得、次第に親交を深めていく。その一方、続発する小さな“異変”が、館を不穏な空気で満たしていき……。たくらみに満ちた、ウォーターズ文学最新の傑作登場。 <上巻>
相次ぐ不幸な出来事の結果、ハンドレッズ領主館はますます寂れていた。一家を案じるファラデー医師は、館への訪問回数を増やし、やがて医師と令嬢キャロラインは、互いを慕う感情を育んでいく。しかし、ふたりの恋が不器用に進行する間も、屋敷では悲劇の連鎖が止まることはなかった……彼らを追いつめるのは誰? ウォーターズが美しくも残酷に描く、ある領主一家の滅びの物語。 <下巻>


「このミステリーがすごい! 2011年版」 第7位、週刊文春ミステリーベスト10も第7位です。
サラ・ウォーターズはすごいですねぇ。
処女作「Tipping the Velvet」は未訳ですが、日本初紹介となった第2作「半身」 (創元推理文庫)が、「このミステリーがすごい! 2004年版」第1位、続けて第3作「荊の城」 (上) (下) (創元推理文庫)「このミステリーがすごい! 2005年版」第1位と、2作連続で第1位をとっています。
続く4作目である「夜愁」 〈上〉 〈下〉 (創元推理文庫)は、ミステリの味付けがかなり薄めでしたが、それでも「このミステリーがすごい!  2008年版」では第18位に食い込んでいます。
そして5作目のこの「エアーズ家の没落」 (上)  (下) が再びベスト10入りし第7位。
こんなに高打率(?) な作家、あまりいないと思います。
今回は、ゴシックロマンのバリエーションですね。
お屋敷物を、その家(ハンドレッズ領主館)にいる人間ではなく、その外側にいる人物(ファラデー医師)から描いて見せます。外側から描けば、もうゴシックロマンではない、とも言えそうですが、立派にその雰囲気をたたえています。

貴族、領主の生活などというものはきっと時代に流されて崩れていってしまったものでしょうから、「エアーズ家の没落」 (上)  (下) で描かれたようなことがなくても、じわじわと没落していったことでしょう。
往年のイギリスの貴族の生活って、なかなか味わい深そうですねぇ。と同時に維持するのも大変。没落するのもむべなるかな、といった感じ。
屋敷とその暮らしぶりがたっぷり描かれていて、なんとかして体面を保とうとするところもあわせ、とっても興味深く読みました。ありふれた題材といえばありふれているのですが、雰囲気に十分に浸れます。
果たして怪異現象はあったのか、なかったのか。「エアーズ家は時代と共に進歩することができなかったために、後退することを選び--自殺や狂気の中に消えた」だけなのか。
どうしても、そこに“なにか”を見とってしまう。じわじわと、それでいてそれなりのスピードで、“なにか”エアーズ家を蝕んでいく様子が堪能できます。屋敷の外側(ファラデー医師)に視点を置いている効果が発揮されているようです。



<おまけ>
ところで、解説で三橋曉さんが、かつての創元推理文庫だったら、本格推理小説、警察小説とハードボイルド、スリラー・スパイ・サスペンス、その他の推理小説(法廷ものや倒叙もの)の4つに分類され、それぞれ名探偵の横顔(またの名をオジサン)、拳銃、猫、時計といった分類マークがつけられていたことに触れ、
「昔だったらこの作品にはいったいどのマークが付けられたのだろうか? と。当時であれば、この『エアーズ家の没落』は、どのジャンルに分類すべきか、さぞかし担当編集者氏を悩ませたに違いない」
と書かれているのですが、この4分類の中だったら、猫しかないのではないでしょうか?
付け足しのように触れられている、帆船マークの怪奇と冒険、も含めると、帆船マークになる可能性もありますが...


原題:The Little Stranger
作者:Sarah Waters
刊行:2009年



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