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リベルタスの寓話 [日本の作家 島田荘司]


リベルタスの寓話 (講談社文庫)

リベルタスの寓話 (講談社文庫)

  • 作者: 島田 荘司
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2011/08/12
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
ボスニア・ヘルツェゴヴィナで、酸鼻を極める切り裂き事件が起きた。心臓以外のすべての臓器が取り出され、電球や飯盒の蓋などが詰め込まれていたのだ。殺害の容疑者にはしかし、絶対のアリバイがあった。RPG(ロールプレイイングゲーム)世界の闇とこの事件が交差する謎に、天才・御手洗が挑む。中編「クロアチア人の手」も掲載。


ひさしぶりに島田荘司の作品を読みました。
この島田荘司の「リベルタスの寓話」は島田荘司の作品の中では低調な方にはいると思いますが、御大のやりたい放題には楽しませてもらいました。

中編「リベルタスの寓話」と「クロアチア人の手」を収めているのですが、
「リベルタスの寓話(前篇)」、「クロアチア人の手」、「リベルタスの寓話(後篇)」という配列になっていまして、「リベルタスの寓話」で「クロアチア人の手」を挟み込んだ形になっています。
こういうのは、「帝都衛星軌道」 (講談社文庫)でも採っていた形式ですね。

間に挟まれている「クロアチア人の手」ですが、日本が舞台です。
日本の俳句振興会から招待されたクロアチア人二人イヴァンチャンとボジョビッチ。うち一人イヴァンチャンが、宿泊していた芭蕉記念会館で密室状態のボジョビッチの部屋の中殺されている。室内にあった水槽に右手と顔を突っ込み、ピラニアに食べられていた。もう一人ボジョビッチは、交通事故にあって死んでいたが、持っていた荷物はイヴァンチャンのもの...
いやあ、やりすぎですって。本当に。
しかも密室のトリックが、唖然とするほど無理矢理。怒る人、かなりいるんじゃないだろうか。

表題作の「リベルタスの寓話」の舞台は、ボスニア・ヘルツェゴヴィナの都市、モスタル。
上で引用したあらすじ通りの、激しい事件が描かれます。
民族紛争の傷に加え、オンライン・ゲームと医学的知識の三題噺みたいです。
作中に描かれているオンライン・ゲーム、仮想通貨の部分がちょっと理解できませんでした。
仮想通貨、といっているのに、プラスチックに金メッキをした玩具が実際のコインとして存在する???? 
このところを除けば、仮想通貨が独り歩きしていき、本当の通貨のように成長(?)していくところなんかは理解できるのですが。
また、事件の鍵となるアイデアも、ミステリではわりと有名な事実なので、これを最後の切り札として提示されても、「知っていますけど」という感じで、拍子抜け。

「リベルタスの寓話」「クロアチア人の手」通して、民族紛争の激烈さ、は伝わってきましたし、作者があとがきでいうところの
「民族愛という正義と道徳により、逆説的に動物以下の卑しさにと転落する仕組み」
には、勉強になったところ大なのですが、全体を通して、作者の意欲が空回りしちゃったかなぁ、というところです。それでも十分楽しんだので、個人的には満足ですが。

ところで、「リベルタスの寓話」では、タイトル通り、クロアチアの原点である都市国家ドゥブロブニクのエピソードが語られます。
あとがきによると、この寓話、島田荘司の創作だそうです。すごいなぁ。
すごく印象的なエピソードなので、実際の故事ではなく、島田荘司の創作と後で知ってびっくり。


<おまけ>
表紙に、”ALLEGORY OF RIBELTAS” と書いてあります。
タイトル「リベルタスの寓話」を訳したもの、と思われますが、リベルタス、といえば、普通は LIBERTAS でしょう。意味からいっても、自由 = Liberty に近しいですもんね。
実際、ドゥブロブニクにいけば、城壁の上に LIBERTAS と書いた旗が翻っています。
今年の8月にドゥブロブニクに旅行にいったときの写真↓でも確認いただけます。
P8210459 ミンチェタ要塞 (800x573).jpg
とすると、間違い、ということになってしまうわけですが、こんな基本的なところでミスするわけもないでしょうから、故意にスペルを違えていることになります。どういう意図かわかりませんが、この「リベルタスの寓話」であつかわれている寓話が、実際のものではなく島田荘司の創作であるので、あえて実際に使われている LIBERTAS とはスペルを変えてそのことを示して見せているのかな、なんて考えたりしました。

さらにおまけでドゥブロブニクの(旧市街の)写真を貼っておきます。
P8210366 山頂からの眺め ちょっとアップに。 (800x600).jpg



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