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胡蝶の鏡 [日本の作家 篠田真由美]


胡蝶の鏡 建築探偵桜井京介の事件簿 (講談社文庫)

胡蝶の鏡 建築探偵桜井京介の事件簿 (講談社文庫)

  • 作者: 篠田 真由美
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2012/08/10
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
4年前、父親の反対を押し切ってヴェトナムに嫁いだ四条彰子が、京介と深春に助けを求めてきた。一家の長老、レ老人との軋轢がその理由だ。なぜか日本人を嫌うレ老人。その原因は90年前の事件にあるらしい。そして、ハノイに飛んだ京介たちの目前で再び事件が起きた。建築探偵桜井京介事件簿、第3部開幕!


第3部開幕ということで、この「胡蝶の鏡 建築探偵桜井京介の事件簿」 (講談社文庫)を含めて残り5作となったわけですが、まず目を惹くのは、オープニングが京介の独白、ということでしょう。
京介の視点で京介自身が語られる、ってやはり注目ですね。
その後、九十年前のベトナム・ハノイの事件の回想シーンを挟んで、「建築探偵挙動不審」という章で、京介の変容が深春の目を通して描かれます。これも要注目。
ジム通い(!) して、掃除・洗濯・料理をするようになり(!!) 、朝もちゃんと起きるようになった(!!!)。うわー、京介らしくない!
シリーズが結末へ向けて大きく動こうとしている予感。わくわくしますね。

事件の方は、九十年前の事件と、現在進行形で彰子が逃げている事件の大きく2つとなります。
「綺羅の柩 建築探偵桜井京介の事件簿」 (講談社文庫)の感想(リンクはこちら)にも書いた通り、「大げさなトリック、わざとらしいミステリ的虚構はなくとも、きちんとミステリが構築できるということを示しているシリーズ」だと思いました。
建築探偵ということで、実在の建築家伊東忠太をとりあげて(とあとがきに書いてあります)、ヴェトナムを舞台にしているわけですが、そのなかでヴェトナムの歴史を簡単におさらいできて(この歴史がかなり興味深いものです)、その歴史に翻弄されながらも自らの手で自らの人生を掴み取ろうとした一族の物語が浮かび上がってくるという構造になっています。
事件は、この一族の物語と一体となっているもので、たとえば真犯人の見当がついてしまったとしても、構図のあちこちに仕掛けられた意外な真相・真実が相互に支え合い、響きあって、全体としてサプライズエンディングを演出しています。

実は、この事件サイドでも、京介をある人物の目を通して語る部分があって、シリーズ的にも注目だったりします。
「容易に手の内を見せない人間だと思った。断じてお人好しの善人などではない。理性に照らして引きあわぬ犯罪などには手を染めないだろうが、既存の倫理や思想道徳は一顧だにしない、むしろ軽蔑して足蹴にしようとする。」--ほほう。
ちなみに、お人好しの善人、という部分は、「そんなお人好しの善人がいるはずがない。それにお人好しといわれる人間は大抵頭が悪いものだ。他に有りようを知らないから仕方なく、お人好しとして振る舞っている、そんなたぐいの連中だ。」というところを受けたものです。

どうやらこのシリーズ、京介の謎を明かしていく方向で話が進んでいきそうなので、楽しみなような、怖いような、そんな感じです。









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