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生存者ゼロ [日本の作家 あ行]


生存者ゼロ (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

生存者ゼロ (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 安生 正
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2014/02/06
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
北海道根室半島沖に浮かぶ石油掘削基地で職員全員が無残な死体となって発見された。陸上自衛官三等陸佐の廻田と感染症学者の富樫らは、政府から被害拡大を阻止するよう命じられる。しかし、ある法則を見出したときには、すでに北海道本島で同じ惨劇が起きていた――。未曾有の危機に立ち向かう! 壮大なスケールで未知の恐怖との闘いを描く、第11回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作。


いやあ、ようやく昨日感想を書いた「八方破れの家」 (創元推理文庫)で、11月に読んだ本が片付きました。
今日の「生存者ゼロ」 (宝島社文庫)から、ようやく12月に読んだ本です。
このところ続けて読んできた
「秘密結社にご注意を」 (宝島社文庫)
「コレクター 不思議な石の物語」 (宝島社文庫)
「婚活島戦記」 (宝島社文庫)
「残留思念(サイコメトリー)捜査 オレ様先生と女子高生・莉音の事件ファイル (宝島社文庫)
が応募された時の、栄えある大賞受賞作です。

あちこち突っ込みどころ満載ではありますが、楽しく読みました、とまずは言っておきたい。
こういうパニックサスペンス、好きなんです。

冒頭、中部アフリカ ガボン南西部ニャンガ州が舞台で、感染症学者の富樫が、エボラ出血熱みたいな感染症で妻を亡くすシーンで物語は幕を開けます。
二年後、自衛官廻田が出動した根室沖の石油掘削プラットフォームで発見された、血まみれの現場で全員が無残にも死んでいた。ここ、結構えぐいです。
で、原因究明と対策を立てるため、富樫が政府に呼ばれる。
おお、王道的展開ではありませんか。無能な政府(明らかに民主党政権を念頭に置いて書かれていますね)とか、富樫と敵対する学者とか、パターン通りに人物配置もされています。廻田に協力することになる女性昆虫学者弓削のキャラクターも典型的。

収まったように見えて、北海道本島に舞台は移り、中標津の川北町、さらには、紋別、北見から足寄、帯広に至る道東が壊滅(!)。災厄は、札幌に迫る。
若干ネタバレ気味になりますが、この災厄をもたらしたものの正体が、ナイスです。
引き起こされる結果があまりにも悲惨ですけれど、この正体には爆笑する人もいるのでは? まさかねぇ。自分の身に、こういうことが起こることは絶対に、絶対に、嫌ですけれど。
そして札幌を守るべく自衛隊が懸命の活動を。

一気に読みましたよ。
以下欠点を書いちゃいますが、これが大賞で納得です。

ただ、粗いんですよね、全体的に。
たとえば、248ページに、「面倒なことは須く敬遠する。」なんて、ちゃんとした語法かどうかきわめて疑わしい表現があったりして脱力。たぶん、誤用でしょう。
388ページの「恐るべき仮説。しかし、弓削の説はすべての辻褄が合い、どこにも誤謬が見当たらない。」という文章だって、誤謬が見当たらない、というほど検証されていませんし、完全にひとりよがり。また、たとえ誤謬が見当たらないのが事実であったとしても、こんなダイレクトにいうべきことではないと思うのですが。
「パウロの黙示録」とか、神がかりなところとか、ちょっと盛り込み過ぎで、処理しきれていない印象も多々あります。
また、最初のプラットフォームとそこにあった死体の検証をちゃんとすれば、もっともっと早く真相を科学者たちは突き止めたんじゃないでしょうか? 
突っ込みどころ満載というゆえんです。

それにしても、ラストの意味がよくわかりません。
下弦の刻印? 月はなかった?
応募時点のタイトルも「下弦の刻印」だったらしいので、相当大事なメッセージを作者としては込めていると思われるのですが、ピンと来ません。
このあたり、ネタバレになってしまいそうですが、下の方に書いておきます。


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以下ネタバレです。

ラストは、富樫の妻が葬られているガボンの地へ、廻田が向かいます。
「廻田がガボンに行ったこと自体、実は何らかの力と意志でここへ導かれたのだとしたら。」
うわっ。怖い。
なんとか破滅を回避したと思っていたら、世界的には新型出血性感染症が広がっており、富樫のノートに不気味な記述が。
「--これこそが人類の運命を決する。下弦の刻印の意味を知るべきだ」

ラストの3行、意味深です。
「下弦の刻印。
 廻田は満天の星に覆い尽くされた空を見上げた。
 そこに月はなかった。」

ここ、正直よくわかりません。

この作品では惨事は新月ごとに起こっているということなので、このあと、なんらかの惨劇、おそらくは人類が破滅するような惨劇がスタートするのでしょうねぇ。
アフリカの地には北海道を襲ったシロアリよりも、はるかに強力なグンタイアリがいますので、同じような変態(?)を遂げれば、凄まじい地獄絵図となることでしょう。
これと新型感染症のダブルの災厄が人類を襲うのでしょうか?

387ページに次のようなセリフがあります。
「大量絶滅とは、ある時期に多種類の生物が同時に絶滅することで、多細胞生物が現れたベンド紀以降、五回起こっています。例えば、古生代後期のペルム紀末、約二億五千百万年前に三度目でかつ歴史上最大の大量絶滅が起こった。このときは三葉虫を含め、すべての生物種の九十パーセントが絶滅しています」
「もう一つ、それは現在です。つまり完新世。多くの生物学者は、現在、大量絶滅が起こっていると見ている。その原因は人類です。~略~ 我々が、六度目の大量絶滅の引き金を引いた。原因は温暖化や海洋汚染だけでなく、過去とは異なる特殊な要因、つまり単一の生物が地表を支配することで生態系のバランスが崩れたことにあると私も信じていた。ところが……、六回目の大量絶滅の原因は人類ではないかもしれない」
「過去五度の大量絶滅の多くは、大陸移動、マントルの上昇など、地殻や地球内部で生じた要因によってもたらされてきました。考えてみてください。今回の最近もそんな地下深部からやって来た」

これを受ければ、人類はやはり絶滅しちゃうんでしょうね。だから、「生存者ゼロ」なんですかね?


ところで、冒頭ガボンの感染症を描いた後に北海道の事件を描くことで、北海道の事件も同種の感染症が原因だろうと思わせる構図となっており、ガボンのエピソードが一種のミスディレクションとして働いているなぁ、とニヤリとしてしまいましたが、これはやはりミステリばかり読んでいるせいでしょうね。



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