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樽 [海外の作家 F・W・クロフツ]


樽【新訳版】 (創元推理文庫)

樽【新訳版】 (創元推理文庫)

  • 作者: F・W・クロフツ
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2013/11/20
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
パリ発ロンドン行き、彫像在中――荷揚げ中に破損した樽に疑惑を抱いた海運会社の社員がバーンリー警部を伴って船に戻ると、樽は忽然と消えていた。紆余曲折を経て回収された樽から出てきたのは女性の遺体。何らかの事実が判明するたび謎が深まり、ドーヴァー海峡を往き来した樽は英仏の警察官、弁護士、そして私立探偵を翻弄する。永遠の光輝を放つ奇蹟の探偵小説、新訳成る。


今さらながら、この新訳版の「樽」 (創元推理文庫)から2月に読んだ本の感想となります。
子どもの頃読んだきりで、新訳をきっかけとした読み直しでしたが、ずいぶん昔に読んだなぁ、というところ。
以前読んだものは講談社文庫版。訳者は三浦朱門(!) でした。かなり分厚い本だった記憶が。
そのときの印象は、正直ぱっとしませんでした。古典だ、名作だと言われているので、ミステリ好きである以上、教養として(?) 読みましたが、正直退屈でしたね。
今回の新訳は、なんだか薄くなったみたいな。分厚い本が増えて、「樽」 の長さが目立たなくなっただけかもしれませんが。

で、中身。
今回、少々身構えて読んだわけですが、退屈しませんでした。むしろ、楽しんで読めました。
創元推理文庫恒例で扉のあらすじも引用します。

埠頭で荷揚げ中に落下事故が起こり、珍しい形状の異様に重い樽が破損した。樽はパリ発ロンドン行き、中身は「彫像」である。こぼれたおが屑に交じって金貨が数枚見つかったので割れ目を拡げたところ、とんでもないものが入っていた。荷の受取人と海運会社間の駆け引きを経て樽はスコットランドヤードの手に渡り、中から若い女性の絞殺死体が……。次々に判明する事実は謎に満ち、事件はめまぐるしい展開を見せつつ混迷の度を増していく。真相究明の担い手もまた英仏警察官から弁護士、私立探偵に移り緊迫の終局へ向かう。クロフツ渾身の処女作にして探偵小説史にその名を刻んだ大傑作。

こちらのあらすじ、なんだかわくわくしますね。
冒頭ちょっと活劇っぽいのも意外。こういうオープニングでしたか。樽が英仏海峡を挟んでいったりきたりして複雑だ、というふれこみですが、この程度だと、ちっとも複雑とは言えないですね。
もっともかねてより指摘されているミス(解説に書かれています)のおかげで、わかりにくくなっているのは事実ですが、むしろシンプルなトリックのように見受けられます。
それを複雑なものと感じさせるところに、クロフツの腕の冴えがあるのではないか、と思いました。

天才型の名探偵が、ひらめき一つで犯人を追いつめていくのではなく、凡人型の探偵が登場するのがクロフツの作品とも言われますが、地道な捜査をすることはしますが、ちゃんとひらめきは見せるんですよね。だから、凡人型というのはあまり正しい表現ではなく、現実的な地に足のついた捜査をする名探偵というべきかもしれません。
この「樽」 では、扉のあらすじにもある通り探偵がリレー形式でバトンタッチしていく構成を取っています。
これはこれで昔不満を抱いたところですが(やはり子供心に、神のごとき名探偵に憧れを抱いていたわけです)、現実的ということを考えると、「樽」 の場合、一人の名探偵に推理させるよりもふさわしいものだと感じました。国を跨いだ捜査をする大事件、この方が似つかわしい。スコットランドヤードもちゃんとパリ警視庁に捜査協力依頼をします。
そして複数の探偵が関与していることがまた、事件を複雑に見せるのに一役買っているのが素晴らしい。

あとこの本、解説を有栖川有栖が書いていまして、これが素敵で楽しい。
ミスにもきちんと触れられています。
個人的には、指摘されているミスに加えて、電話を巡るエピソードも気になりました。
たとえば246ページに、カフェで電話をかけたことは確認は容易で、かつ、実際に電話をかけたかどうかは相手を調べればわかる、というような部分があるのですが、ほかにいくらでも考え方は成立するように思われる(電話をかけたことは事実でも、どこからかけたかをはっきりさせるのは難しいと思います)ので、ちょっと真偽をつきとめる考え方としては不十分かなぁ、と。

それにしても、退屈と思っていた「樽」 をここまで楽しめるとは、収穫でした。
新訳、ありがとう。



原題:The Cask
作者:Freeman Wills Crofts
刊行:1920年
訳者:霜島義明





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