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道徳の時間 [日本の作家 か行]


道徳の時間

道徳の時間

  • 作者: 呉 勝浩
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/08/05
  • メディア: 単行本


<帯惹句>
問題。悪い人は誰でしょう?

<裏表紙側帯あらすじ>
彼を裁いたのは、「ルール」ですか? 「モラル」ですか?
ビデオジャーナリストの伏見が住む鳴川市で、連続イタズラ事件が発生。現場には『生物の時間を始めます』『体育の時間を始めます』といったメッセージが置かれていた。そして、地元の名家出身の陶芸家が死亡する。そこにも、『道徳の時間を始めます。殺したのはだれ?』という落書きが。イタズラ事件と陶芸家の殺人が同一犯という疑いが深まる。同じ頃、伏見に、かつて鳴川市で起きた殺人事件のドキュメンタリー映画の仕事が舞い込む。13年前、小学生を含む300人の前で青年が講演者を刺殺。動機も背景も完全に黙秘したまま無期懲役となった。青年は判決にいたる過程で、『これは道徳の問題なのです』とだけ語った。証言者の撮影を続けるうちに、過去と現在の事件との奇妙なリンクに絡め取られていく--


単行本です。
第61回江戸川乱歩賞受賞作。
ここ数年、読んだ順を無視して先に感想を書いている乱歩賞受賞作。今年も先に他の読了本を置いておいて、先に感想を書きます。

力作だな、と思いました。
選評で辻村深月が書いているように、謎は見事だと思います。
『生物の時間を始めます』『体育の時間を始めます』といったメッセージつきの連続イタズラ事件?
地元の名家の厄介者の名士が自殺したと思われていたが、そこに、『道徳の時間を始めます。殺したのはだれ?』というメッセージがあり、イタズラ事件が殺人事件に発展したのか!?
同じ地域で13年前に起こった殺人事件の犯人向晴人が『これは道徳の問題なのです』とだけ述べてあとは沈黙を守っている理由? そして本当に向が犯人だったのか?
そして、主人公伏見に、その向の事件のドキュメンタリーを作ることを頼んできた女監督越智の本当の狙いは何か?

で、これをどう収束させるかがミステリとしては腕の見せどころかと思うのですが、正直今一つ。
収束させるよりは、バラバラなままラストになだれ込んでしまった印象。
そのせいで、途中で散漫な印象となってしまいました。がんばって一気に読んだことは読んだんですが。
個々の謎の回答も、それほどインパクトなし。たとえば、越智の正体はあまりにも予想通りというか、これ、驚く読者いますかね?
13年前と現在のつながりも、いろいろ難あり。
主人公が行動を起こすタイミングが作者にとって都合よく設定されている点含め、残念です。

巻末の選評でも結構難点が挙げられていまして、いや、よく受賞できましたね。有栖川有栖と石田衣良は好意的ではありますが、積極的に推しているの、辻村深月だけみたい。
13年前の殺人の動機は、石田衣良が「驚愕というより脱力を誘う」と、池井戸潤が「まったくばかばかしい限りで言葉もない」と書いていますが、この動機自体はミステリ的にはあり、だと思います。現実にどうかと言われると、躊躇しますが(いや、もう、こんな理由で殺されたらたまったもんじゃない)。

とはいえ、ミステリとしての不手際は多々あるものの、あと文章も読みづらかったですが、冒頭述べましたように、力作なんです。
なんだかわからないけれど、作者の気迫が...
この迫力が受賞につながったんでしょうね。


ところで、この本、乱歩賞受賞作に恒例の作者のことばが掲載されていません。
日本推理作家協会のHP(リンクはこちら)にいけば載っていますが、単行本にも収録しておいてほしかったです。


<蛇足>
些末なことですが、小学校で「生物」というのはちょっといただけないのではないでしょうか?
おそらく科目名としたら、「理科」? 
生物、物理、化学といった分け方は高校からではなかったかと思います。


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