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蛻 [日本の作家 あ行]


蛻 (講談社文庫)

蛻 (講談社文庫)

  • 作者: 犬飼 六岐
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/12/13
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
尾張藩の江戸下屋敷内に実在した「御町屋」と呼ばれる宿場町。この町では、赤の他人が見せかけの夫婦として割り振られた家に住まわされ、仮の商いを営み、藩主が遊覧する時だけ立ち退かねばならなかった。御町屋で連続殺人が発生し偽の住人たちは疑心暗鬼に陥る。人心の謎と闇を射貫く時代小説の決定版。


どこだったのか忘れてしまったのですが、激賞されていたので買いました。
確か、ミステリーっぽかったし、あらすじをチェックしてみてもミステリーみたいで、面白そうだし。
帯も楽しそうなんですよ。
「江戸に実在した「偽の宿場町(テーマパーク)で、連続殺人発生。
すべてが偽で、すべてが嘘?
気鋭の作家が虚実を重ねて仕掛けた渾身の時代小説」
うん、いかにもミステリーっぽい。
ところが、この作品、ミステリーではありません....

尾張藩の下屋敷に宿場町を原寸大で再現した「御町屋」と呼ばれる一画があって、賓客に見せるのに使われていた。より現実味を出すために、御町屋に実際に人を住ませた、という設定。
屋敷の敷地の中にあるわけですから、クローズドサークルが形成されていますし、そこを舞台に連続殺人となると、新しいパターンの「吹雪の山荘」ものですよね、ミステリでいうと。
この着想が、まず素晴らしい、と思ったわけです。
さてさて、そこからどんな手を繰り出してくれるのか。
ストーリーは、まずはミステリっぽく進みます。
誰が犯人なのか、住人たちの間で、探り合い、犯人捜しが始まり、本当に御町屋は閉ざされているのか、という視点の捜査(?)も行われ、ミステリとして面白くなりそうな雰囲気がばんばん出てきます。

ところが、ところが、終盤物語の方向性はガラッと変わってしまいます。
そっちですかぁ、作者の興味があるのは...
要するに、連続殺人っていうのは、それを導くためのだしに使われているだけなんですね...謎解きをする気なんてなかったんだ...
正直、がっかりしました。勝手にミステリを期待したこちらが悪いんですが。
でもね、ミステリとしての結構を整えても、この作品はちゃんと成立するんですよ。なのに、投げ出してしまったみたい。ミステリ好きとしては、正直、手を抜くな、と思ってしまいましたね。

とネガティブなコメントを連ねましたが、つまるところ、ミステリとして読んでしまったこちらが悪いわけで、ミステリだなどと期待せず、淡々と時代小説として読んでいればまた違った感想になったことでしょう。
ミステリという観点を考えないでみても、物語のバランスが悪い点は気になりますが(それも前半をミステリっぽく書いてしまったからだと思います。でも、そうしないとサスペンスで読者をひっぱれなかったのかも)、架空の宿場町を舞台に、いろいろなタイプの人間模様を描いている点も十分おもしろい(はずな)ので、そこを楽しめばよい作品なんだろうな、と思います。

それにしても、この作品は、末國善己の解説が傑作です。
もう、無理やり現代に結びつけて、ありきたりで平凡でつまらない教訓を読み取っています。
こんな読み方をされて可哀想な作品だなぁ、と思えてしまうくらい。
「現代人への教訓として、今こそ重く受け止める必要があるのだ」なんて、そりゃあ、どう読もうが読者の勝手ではありますが、そんな窮屈な読み方をせずとも、読書の楽しみは十分あると思います。
手に取られた方は、ぜひぜひ、解説までお楽しみください。






タグ:犬飼六岐
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