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百瀬、こっちを向いて。 [日本の作家 な行]


百瀬、こっちを向いて。 (祥伝社文庫)

百瀬、こっちを向いて。 (祥伝社文庫)

  • 作者: 中田 永一
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2010/08/31
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
「人間レベル2」の僕は、教室の中でまるで薄暗い電球のような存在だった。野良猫のような目つきの美少女・百瀬陽が、僕の彼女になるまでは――。しかしその裏には、僕にとって残酷すぎる仕掛けがあった。
「こんなに苦しい気持ちは、最初から知らなければよかった……!」
恋愛の持つ切なさすべてが込められた、みずみずしい恋愛小説集。


解説で、瀧井朝世が、中田永一が覆面作家であること、そして「現在もなおその素顔は明かされていない」と書いていますが、現段階では公開されているのでここでも書いてしまいますが、中田永一が、乙一の別名義だということ、知らなかったんです。
なので、この「百瀬、こっちを向いて。 」は、映画にもなったし、本屋さんでどーんと積み上げられていたんですが、恋愛小説、というふれこみだし、スルーしていたんです。でも、乙一だとわかれば、話は別です。
ミステリであろうとなかろうと、乙一の本なら、読まねば。

表題作のほかに
「なみうちぎわ」
「キャベツ畑に彼の声」
「小梅が通る」
が収録されています。

表題作は、やはり乙一というか、現在と過去の話の切り替えのテンポが絶妙で、すっと世界に入り込めました。
かろうじてレベル1ではないだけのレベル2である底辺に近い僕が身代わりの恋人を頼まれて、「知らなけりゃよかった」気持ちを知ってしまう。
乙一らしい、「切なさ」があふれています。

「なみうちぎわ」は、1997年の9月から5年間昏睡状態だったわたしの物語。
当時16歳だったわたしは、小学六年生の男の子の家庭教師をしていた。5年後、小太郎は高校2年生。当時のわたしを追い越している。いまのわたしは21歳になっているけれど、気持ちは16歳。
これでだいたい想像つくでしょう?  はい、そういう話なんです。
でも、ほかの作家なら、こういう味わいにはなりません。

「キャベツ畑に彼の声」は、バイトでテープおこしをした女子高生が、国語教師の本田先生が覆面作家の北川誠二であることを知ったことから始まります。
一種の叙述トリックのような効果が狙われていて、そしてそれが見事なくらいきれいに決まっていて、なのに、ちゃんと切ない。さすがです。

「小梅が通る」の主人公柚木は、美少女です。
でも、見事なまでに控え目というか、目立ちたくない性格で、「夕方からドラマの再放送があり、それをながめながらしぶいお茶を飲むのがわたしの日課である」(207ページ)なんていうありさまで、素顔を隠して変装で毎日すごしている。
「あなたのことを好きになる人なんていない。あなたにちかづく人は、あなたの顔が好きなだけで、あなた自身にはこれっぽっちも興味がないんだからね」と昔の友だちにいわれた言葉が、呪いとなっている。
そこに軽薄な山本寛太というクラスメートがぶつかってくる。後日、変装をとった柚木は、寛太と会ってしまい、とっさに柚木の妹・小梅だと嘘をついてしまう。
なんだか、よくある設定みたいに思うんですが、考えてみると、こういうのってなかったかも。似ているけど、違う。そして、その違うところが、ドラマを生む。
解説では、瀧井朝世が「(『小梅が通る』のほかは)終盤で意外な事実が明かされる、という展開が待っている」と書いていますが、個人的には十分意外性ありましたよ。

やっぱり乙一、いいですね。
中田永一名義の作品も、さらに別名義の作品も追いかけていきたいです。


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