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QJKJQ [日本の作家 さ行]


QJKJQ

QJKJQ

  • 作者: 佐藤 究
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/08/09
  • メディア: 単行本


<帯あらすじ>
猟奇殺人鬼一家の長女として育った、17歳の亜李亜(いちのありあ)。一家は秘密を共有しながらひっそりと暮らしていたが、ある日、兄の惨殺死体を発見してしまう。直後に、母親も姿を消し、亜李亜は父と取り残される。何が起こったのか探るうちに、亜李亜は自身の周りに違和感を覚え始め--
私の家族は全員、猟奇殺人鬼。


単行本です。
第62回江戸川乱歩賞受賞作。

なかなかよい表紙だと思うんですが、光の加減でしょうか、書名が目立ってなくて、書店で探すのにちょっと苦労しました。(上の書影でははっきり見えますね......)

正直、嫌いなタイプの作品だったので、いよいよ乱歩賞もこういう作品が受賞するようになったのか...とちょっと複雑な思い。
作者の気負いが伝わってくるところはいいと思うんですけれど、いかんせん、内容が嫌い。

選評を確認すると、有栖川有栖と今野敏のお二人が強く推したようですね。
今野敏の「殺人そのものを突き詰めることで、人間を見つめている。」ってすごい選評です。
湊かなえも「一番高い評価を付けました」と書いていますが、あまり推した感じはしません。
辻村深月と池井戸潤は消極的ですね。

有栖川有栖は「新しい」と評していますが、これ、新しいですか?
辻村深月ははっきりそのことに異を唱えていて、「すでに既存の小説の世界で名作がいくつもあり、そのパラダイムシフトはノベルスやライトノベルの現場で十年以上前にすでに起きていたという印象である。」と書いています。
ノベルスやライトノベルまで来なくても、SFでは昔っから取り上げられている設定だと思います。ディックなんて、こういうのいっぱい書いていませんでしたっけ?
ミステリでもかなり手垢のついたイメージだと思うのですが...
確かに、乱歩賞にはなかった傾向の作品ですが、それはそういう傾向の作品はミステリとしてはあまりおもしろいものにならないから、だと思っていました。

新しいかどうかは置いておいて、このあたりのことは池井戸潤がかなり的確に突っ込んでいます。
「その謎解きは肩すかしだ。その後の展開も、この小説世界を支える枠組みやルールを後出ししている印象を受け、果たしてこれが周到に準備された小説といえるか、という疑問を最後まで拭えなかった」
そしてこの設定を前提とした物語の構築という点でも、辻村深月が鋭い指摘をしています。
「物語のスタートが脆弱であるがゆえに、作品の土台が厚みを失ってしまっている。本来なら魅力的であるはずの“彼女の現実”が著者にのみ都合のいい単なる舞台装置に読めてしまう。」(真相に絡むので伏字にしておきます)
「混沌を混沌のまま残すに足る小説にするならば、そうした疑問を読者が差し挟む余地がないほどの、こちらの予想を遥かに裏切り、読者の目線を凌駕する何かをもうひと押し見せてほしかった。その〝何か〟は、圧倒的な真相でも、読者を煙に巻くようなさらなる混乱でも破綻でも、なんでもいい。こちらが作品世界の前で呆気に取られて棒立ちになるような瞬間を待ち続けたが、すべてが丁寧にまとまりすぎ、それが果たされないまま終わってしまった。好みの作品であり、かける期待が大きかった分、残念だ。」
湊かなえは「こういう作品があまり好きではない」としたうえで、テクニカルな指摘をしていますが、その指摘はもっともで、確かにそういう配慮があれば、読後感はずいぶん違ってくるかもしれません。

思わせぶりな(?)タイトルも、読む前からトランプでしょ、と予想していたら、そういうエピソードが出てくる。
87ページからのポーカーのシーン。
ところが、あとで、
「トランプのカードが、QJKKJQじゃなく、QJKJQだった理由は? なぜKはひとつなのか--」(238ページ)
となるのは、何かの冗談ですか? ポーカーって、6枚じゃないですよ。
218ページに出てくるKがひとつの理由っていうのも、まず無理筋。
いろいろなところで残念です。

ただ、辻村深月が「真面目」と評しているように、非常に丁寧に書かれています。
これだけ極端な設定の物語を、地道に地道に書き上げていっている。
だからこそ一層、真相が見抜きやすくなってしまっているといえばそうなんですが、このあたりのミステリの文法を守ろうとする手つきは素晴らしい。
おそらくこの佐藤究という作家は、折り目正しいミステリも、きちんと書きこなせる方なんだと思います。
作家の方向性がどちらを向いているかはわかりませんが、時には普通のミステリも書いてみてもらいたいです。


<蛇足>
昨年、呉勝浩「道徳の時間」の感想(リンクはこちら)で
「ところで、この本、乱歩賞受賞作に恒例の作者のことばが掲載されていません。
日本推理作家協会のHPにいけば載っていますが、単行本にも収録しておいてほしかったです。」
と書いたのですが、今回もありません。
「QJKJQ」の作者のことばが掲載されている日本推理作家協会のHPへのリンクはこちらです。
これを読んで、「顔に降りかかる雨」 (講談社文庫)が受賞した際の桐野夏生のことばを思い出してしまいました。


<2018.11追記>
2018年9月に文庫化されていますので、書影を。

QJKJQ (講談社文庫)

QJKJQ (講談社文庫)

  • 作者: 佐藤 究
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/09/14
  • メディア: 文庫



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