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記憶屋 [日本の作家 あ行]


記憶屋 (角川ホラー文庫)

記憶屋 (角川ホラー文庫)

  • 作者: 織守きょうや
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2015/10/24
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
大学生の遼一は、想いを寄せる先輩・杏子の夜道恐怖症を一緒に治そうとしていた。だが杏子は、忘れたい記憶を消してくれるという都市伝説の怪人「記憶屋」を探しに行き、トラウマと共に遼一のことも忘れてしまう。記憶屋など存在しないと思う遼一。しかし他にも不自然に記憶を失った人がいると知り、真相を探り始めるが……。記憶を消すことは悪なのか正義なのか? 泣けるほど切ない、第22回日本ホラー小説大賞・読者賞受賞作。


第22回日本ホラー小説大賞の読者賞受賞作ということで、読みやすいんだろうな、と思って読み始めました。
この本は、エピソードを連ねた連作短編集のような構成になっていて、全体を貫くように主人公のエピソードが描かれる、という構造です。
最初のエピソードはまだぎくしゃくしたところがありましたが、2番目の弁護士のエピソードくらいからぐんと読みやすくなりました。予想通り。
記憶を消したい理由と、消された後のたたずまいがなかなか美しくて、ノスタルジック、泣ける、切ない、という評はこのあたりから来ているのでしょうね。こういうテイストのエピソード、ずーっと続けることが可能かも。

記憶屋、というから、記憶してくれる人のことかと思ったら、逆なんですね。
記憶を消してくれる人。
それは記憶屋とは呼ばないんじゃないかな、と思ったのは余計な話。
「消してしまいたい、どうしても忘れられない記憶を、消してくれる」(5ページ)
そんなに都合よく、消したい記憶だけ消せるものか、直接的ではなくても関連する部分の記憶はどうするんだ、と思いますが、まあそこはさらっと流すべきなんでしょうね。作中でもいびつな残り方をした記憶に触れられているところがありますが、作者もそのあたりは意識されたのかも。
記憶屋に会ったことは忘れるという設定に概ねなっているようです(記憶屋に会った記憶が残っているエピソードもあり、この辺りのメカニズムは今一つわかりません)が、消された記憶に登場する・関連する人物が持っている記憶までは消されないので、その人物から見ると急に記憶喪失みたいになってしまって怪しい。だから記憶屋なんて都市伝説っぽく語られてしまう。
Aという人物が持つ記憶が消されると、その記憶だけではなく周辺の人物も忘れ去られてしまう。自分が忘れられてしまう哀しみ、というのはおもしろい着眼点と思いましたが、こういう中途半端な設定の賜物ですね。

この記憶屋の存在、考えてみたら結構怖い存在ではありますが、ホラーというテイストにはなっていません。

記憶屋を捜す、つきとめる、という要素もありますが、ちょっと安直ですね。
「ミステリー要素も濃密」と帯に感想を書かれている書店員さんもいるようですが、このレベルで濃密と書かれると、ずっこけてしまいますね。
記憶屋の正体、ミステリー好きならすぐに見抜いてしまうでしょう。

記憶屋に対して懐疑的というか、嫌悪感を抱いていた主人公・遼一が、その記憶屋と遭遇するラストシーンは、なかなか考えさせられるものがあり、ノスタルジック、泣ける、切ない、というところで、印象に残りました。
(どこかで読んだことある感じだなぁ、という思いが拭えないのですが、果たしてどの作品だったのかわかりません)
エンディングは、経緯からしてそうなるしかないよなぁ、というところに着地するのですが、これは哀しいです。

個人的には、変なところに感心し、気に入っています。
記憶を消してくれる人は記憶屋と呼ばないんじゃないかな、という感想を上に記しましたが、遼一と記憶屋の対決シーン(?) で交わされる会話を通して、「記憶屋」と呼ばれるのがふさわしいんだな、と納得できたからです。

また、
第1のエピソードが、忘れたい記憶そのものではないけれど、つれて記憶から消されてしまった人物の視点。
第2のエピソードが、忘れさせたい記憶を持つ人物の視点。
第3のエピソードが、忘れたい記憶=消した記憶のまさに対象となった人物の視点。
最後となる第4のエピソードは、あえていえば、記憶屋の視点。
とそれぞれ記憶をめぐる立ち位置が違う人からみたエピソードが描かれていることもポイントかな、と思いました。

「記憶屋II」 (角川ホラー文庫)
「記憶屋III」 (角川ホラー文庫)
と、これ、シリーズにするの難しそうなのにシリーズ化されています。
興味が湧いてきました。


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