黒いカーテン [海外の作家 あ行]
<裏表紙あらすじ>
事故で昏倒したことがきっかけで、記憶喪失から回復したタウンゼンド。しかし、彼の中では三年半の歳月が空白になっていた。この年月、自分は何をしてきたのか?不安にかられる彼の前に現れた、瑪瑙(めのう)のような冷たい目をした謎の男。命の危険を感じ取った彼の、失われた過去をたどる闘いが始まった。追われる人間の孤独と寂寥を描かせては並ぶ者のない、サスペンスの名手の真骨頂。
今月(2017年9月)読んだ2冊目の本です。
創元推理文庫の今年の復刊フェアのうちの1冊です。
むかし子供向けのものを図書館で借りて読んで以来ではないかと思います。
当然(?)、サスペンスものだったことのみ記憶にあるだけで、話の中身はちっとも覚えていませんが...
カップリングが「暁の死線」 (創元推理文庫)で、どちらかというと「暁の死線」 のほうが好みに合った記憶ですが、この「黒いカーテン」 も十分おもしろかったはず...
大人向けの普通の翻訳を読むのはこれが初めてです。
200ページくらいの短い作品ですが、非常にサスペンスフルで、今の視点から見ると手垢にまみれたような記憶喪失ものながら、すっきりしたストーリーがとても好もしいです。
主人公の記憶喪失中の3年間の間に起こった事件が鍵となるのですが、そこに使われているトリックが意外でした。
あ、意外といっても、意外なトリックが使われていたということではありません。
このトリックに比重があるわけではなく、かつ、見せ場にできるようなトリックではないし、ミステリで先例がいくつもあるトリックなので、とりたててあれこれ言うのもなんですが、アイリッシュがこのようなトリックを使っているということが意外でした。
アイリッシュの作品、実はそんなに読めていないので、あらためて読んでみると、いろいろと発見があるのかもしれませんね、個人的に。
主人公に都合のいい結末を迎えるところが現代の感覚からいうとゆるいのですが、そういう甘さのあるところが、ウィリアム・アイリッシュの魅力のように思えます。
細かいところを気にし始めると、いろいろとボロの多い作品ですが、さっと読めて、主人公と一緒に一喜一憂はらはらできる、楽しい作品だと思いました。
ほかのアイリッシュ(=ウールリッチ)の作品もまた読んでみたいです。
<蛇足>
「新聞紙は、急湍(きゅうたん)のようにバラバラになって床に散った」(20ページ)
という表現が出てきます。
急湍って語、知りませんでした。
「流れの速い瀬。早瀬。急灘 (きゅうだん) 。」
らしいです。
原題:The Black Curtain
作者:William Irish
刊行:1941年
訳者:宇野利泰
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