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粘膜蜥蜴 [日本の作家 あ行]


粘膜蜥蜴 (角川ホラー文庫)

粘膜蜥蜴 (角川ホラー文庫)

  • 作者: 飴村 行
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2009/08/25
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
国民学校初等科に通う堀川真樹夫と中沢大吉は、ある時同級生の月ノ森雪麻呂から自宅に招待された。父は町で唯一の病院、月ノ森総合病院の院長であり、権勢を誇る月ノ森家に、2人は畏怖を抱いていた。〈ヘルビノ〉と呼ばれる頭部が蜥蜴の爬虫人に出迎えられた2人は、自宅に併設された病院地下の死体安置所に連れて行かれた。だがそこでは、権力を笠に着た雪麻呂の傍若無人な振る舞いと、凄惨な事件が待ち受けていた……。


第15回日本ホラー小説大賞長編賞受賞作「粘膜人間」 (角川ホラー文庫)に続く第2作で、2010年の第63回日本推理作家協会賞を獲っています。
「粘膜人間」が好みの作風ではなかったので、この「粘膜蜥蜴」を読もうかどうか迷っていたのですが、日本推理作家協会賞ということで、読むことにしました。
これが推理作家協会賞か...

当時の選考委員の方々の選評を長いですが、それぞれ引用しておきたいです。

赤川次郎
飴村さんの「粘膜蜥蜴」が候補に上っていることに驚いた。今「ミステリー」の範囲はここまで広がっているのかと思った。この作品については、私の考える「小説」と、あまりにかけ離れていて、判定ができないので、他の選考委員の判断に委ねた。
伊坂幸太郎
『粘膜蜥蜴』の凄さは、不気味さや気持ち悪さ、乱暴さといった「イロモノ」的な部分ではなく、むしろ、それに甘えることなく、贅沢なほどに魅力的なエピソードを積み重ねているところだと思います。しかも、「不快感に満ちた作品」のように見えて、(意外にも!)バランスが取れています。それはたぶん著者の視線に、人間を分析し、見下すような傲慢さがないからかもしれません。
歌野晶午
先を読まずにはおれない、破格のエンターテイメントである。もしこの作品に賞を与えないことがあったとしたら、その理由は、登場人物、舞台設定、発生する出来事が非常識きわまりないからであろう。しかし異様な作風でありながら、実は抑制がきいており、推理小説、冒険小説としての根幹はしっかりしている。破天荒であるがゆえ、どのような結末でも許されるところ、きちんと着地し、合理的な驚きが用意されている。嫌な作品にふさわしい嫌な伏線の数々は見事。
北村薫
彩り豊かな悪夢、裏返しの『春琴抄』──といっていい物語『粘膜蜥蜴』を推した。整合性という意味では、おかしな点も眼につく。だが、そういう指摘は無意味だろう。理性は、夢から覚めて後に働くものである。
佐々木譲
飴村行さん『粘膜蜥蜴』は、わたしにとって初めて読む種類の小説。「蜥蜴人間」が登場した冒頭から、わたしは読み方もわからないまま、感動のラストへと引きずられていったのだった。ラストで、まるで妄想全開で書かれた小説のように見えていたこの作品が、じつは緻密な構成と記述を持っていたことに気づいて、唸って次点。もっとも、解釈できなかった部分もかなりあったのだが、「この作品に整合性を求めるのは無意味」という、ある選考委員の見方を受け入れる。

これを見てから、作者飴村行の受賞の言葉を読むと味わい深いです。
「今回の受賞作にしても、デビュー作が余りにも未熟でストーリー構成が不完全だった為、二作目はせめて最後にオチのある小説を書こうという思いしかありませんでした。しかも純度百パーセントのエログロホラーを書いたつもりだったので、ミステリ小説としてここまで注目され、ここまで評価していただけるとは夢想だにしませんでした。」

赤川次郎に「ちゃんとしっかり読め」といいたい気もしますし、同時に推した選考委員たちには「本当に推理小説(ミステリ)として高く評価できる作品ですか?」と改めて聞いてみたい気もします。
確かにラストへ向けた伏線はあちこちにはってありますし、構成も考えられているように思いますが、それでもミステリの賞を与えるほどのものかなぁ、と思えてなりません。
嫌悪感を催すようなエピソードや世界観に引きずりまわされてたどり着いた地点から振り返ってみると、(失礼な物言いながら)意外と構成が考えられているな、ということで、選考委員も酔わされてしまったのではないでしょうか。
歌野晶午が言うように、「破天荒であるがゆえ、どのような結末でも許される」わけで、きちんと着地したといっても、都合のいいように組み替えただけ、と意地悪な言い方もできなくはありません。
普通に書かれていたら、もう一段(か何段かわかりませんが)高いレベルを要求されていたような気がします。(一方で、現実感ある物語のふりをしていながら、支離滅裂というかでたらめだらけの小説よりはよほど潔いとは思いますが)

飴村さんの本はまだ2冊しか読んでいませんが、あまり好きな作風ではないので、これが最後になる可能性大です。





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