カンナ 天満の葬列 [日本の作家 高田崇史]
<裏表紙あらすじ>
出賀茂(いずかも)神社の社伝「蘇我大臣馬子傳暦(そがのおおおみうまこでんりゃく)」を巡る忍び同士の争いは、更に熾烈に。貴湖の祖父である丹波が何者かに襲われたのを皮切りに、貴湖や忍者犬のほうろくも入院、甲斐自身も繰り返し危険に晒される。そんな中、覚醒しつつある甲斐は、「菅原道真が大怨霊になった理由」と社伝のただならぬ関係を解き明かす!
シリーズも順調に巻を重ねて第七冊目。
感想を書くのがずいぶん遅くなりましたが、2015年10月に読んでいます。
今回のテーマは、天神さん=菅原道真。
あらすじにもありますが、「菅原道真が大怨霊になった理由」がポイントですね。
高田崇史の愛読者なら既視感のある謎解きですが、かなり鮮やかなものだと思います。
「歴史は勝者が作る」。敗者の功績も全て勝者のものとされてしまう正史。その中での勝者と敗者のせめぎあい。
「道真を怨霊を位置づけることによって、彼の左遷は冤罪だったと主張することができる」(275ページ)
「歴史に名を留めておくと同時に、無実であることも世に訴えられる」(275ページ)
278ページから明かされる太宰府天満宮の謎(参道が直角に折れ曲がっている理由、心字池の存在、社殿が墓所の上にある理由)と合わせて、今後天満宮にお参りするときに、いままでとは違う感慨を抱くかもしれません。
ところで、作中で菅原道真の功績とされている事象(「実際にこの改革を断行したのは、ひょっとすると本当に藤原時平たちだったのかもしれない。しかし、少なくともそのレールを敷いたのは、道真だということは間違いないと思う」(265ページ)と若干の留保は付されているものの)、律令の身分制の「延喜の国政改革」での廃止=奴婢解放に結びついたもの(264ページ)ですが、あまり歴史の授業ではクローズアップされていなかったように思います。「大化の改新に並ぶ政治的変革」だというのに...
シリーズは加速しておりまして、危険度もアップ。
残り2巻です。
「カンナ 出雲の顕在」 (講談社文庫)
「カンナ 京都の霊前」 (講談社文庫)
<蛇足1>
「しかし、そんな恋心と愛情は別物じゃよ。愛情というものは、お互いの暮らしの中で努力して、日々築き上げるものだ。恋心は打ち上げ花火。全くレヴェルの違う話だ。今こうして思えば、恋などは長い人生の中での、引っ掻き傷のようなものだった」(77ページ)
海棠鍬次郎と孫娘聡美の会話で出てくるやり取りです。
うーん、そういうものですか...
<蛇足2>
このシリーズ、忍び、がひとつ大きな要素として出てきますが、忍びの歴史と流派の説明が110ページから簡潔になされています。便利!
忍びのルーツは飛鳥時代、役小角(えんのおずぬ)、というのも高田崇史のおかげで覚えました!
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