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かくして殺人へ [海外の作家 カーター・ディクスン]

かくして殺人へ (創元推理文庫)

かくして殺人へ (創元推理文庫)

  • 作者: カーター・ディクスン
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/01/28
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
牧師の娘モニカ・スタントンは、初めて書いた小説でいきなり大当たり。しかし伯母にやいやい言われ、生まれ育った村を飛び出してロンドン近郊の映画撮影所にやってきた。さあ仕事だと意気込むが、何度も死と隣り合わせの目に遭う。犯人も動機も雲を掴むばかり。見かねた探偵作家がヘンリ・メリヴェール卿に助力を求めて……。灯火管制下の英国を舞台に描かれた、H・M卿活躍譚。


この作品は新樹社ミステリーで単行本として出たときに読んでいます。
文庫化にあたって、全面的に改稿したそうです。
しかしまあ、見事に忘れていますね。

カーお得意の(へたくそだという人も大勢いらっしゃると思いますが、個人的には非常に味わい深いと思っています)ロマンスがフル回転するサスペンスものです。
主人公であるモニカが襲われる危機というのが、硫酸をかけられそうになる、銃撃される、というものなので、かなり深刻な事件なわけですが、どこかしらドタバタ喜劇を見ているような...
それは一つには映画撮影所を舞台にしているから、ということもありますが、やはりモニカとウィリアム・カーマイケルのやりとりが、(少なくとも周りや読者には)ユーモラスだから、かと思います。

探偵役はH・M卿なんですが、すごーく控え目で、なかなか出てきません。
第十四章まである本書で、第八章までは姿を見せず、そのあともなかなか腰をあげません。
しかも、事件については
「いったじゃろう」「わしはなくなったフィルムに興味があるのであって、ほかのことはどうでもいい。」「わしが暇だとでも思うのか? ほしいのはあのフィルムだというのに、水晶球を見て殺人者を占えと?」(177ページ)
なんて冷たいことをいう...
このフィルム消失事件というのが、まあ、脱力ものというか、なんか作者はH・M卿へのいじわるのためだけに考えついたのでしょうか(笑)?

事件のほうは、ドタバタに埋もれてしまっていますが、よく考えられた仕掛けが抛りこまれていまして(そのあたりはSAKATAMさんの黄金の羊毛亭をご覧ください)、面白い狙いが込められています。
解説では霞流一がベスト10級の古典作品(リンクをはっています。ネタバレになるのでクリックする際はお気をつけください)へのチャレンジだと指摘していますが、正直ピンときません。というか、この「かくして殺人へ 」某作品へのチャレンジだというのなら、数多の作品も同様にチャレンジとなってしまいますし、取り立てて「かくして殺人へ 」を指摘することもないかな、と。
それに本書の狙いは、ベスト10級の古典作品と同じ方向ではないように思います。SAKATAMAさんはクリスティ「ABC殺人事件」 (ハヤカワ文庫)をあげておられますが(鋭い!)、ぼくは個人的に同じ作者の「葬儀を終えて」 (ハヤカワ文庫)を連想しました。まったく手つきは違うんですが。

ということで、カー(カーター・ディクスン)にしては軽量級であまり高く評価はされていませんが、そこそこイケてる作品なのでは、と思いました。


<蛇足1>
70ページに
「じゃあ、わたしはほんの十九にしか見えなかったっていうの?」
「十九歳に見られただなんて、本当は二十二で、自分では二十八には見えると思っていたのに。」
というのが出てきます。
若く見えればいい、というわけではないんですね。
日本だと喜ぶ人が結構いるような気がしますが。

<蛇足2>
「なあ、若きソーンダイク博士、本物の刑事なら、それを最初に訊くんじゃないんか?」(103ページ)
シャーロック・ホームズではなくて、ソーンダイク博士が出てくるところがおもしろいですね。

<蛇足3>
「少なくとも彼には、比べるまでもなくこの手紙の筆跡が黒板の文字と同じだとわかった。」(127ぺージ)
とあるのですが、紙に書く筆跡と、黒板の筆跡ってそんな簡単に比べられるものでしょうか?
まあ、それくらい似ていた、ということかもしれませんが...素人的にはずいぶん違う気がします。

<蛇足4>
貴族院に行かされるのをいやがるH・M卿というのが一つのフォーマットとなっているのですが、ケンに
「貴族の称号をやれといわれても、謹んで断ればいいでしょう?」(181ページ)
と言われて
「おやおや!おまえさんとて結婚しておるじゃろう?」(同)
と返すH・M卿がおかしい...しかも
「加えて、適齢期の娘がふたりおる。ケン、貴族の称号を断ったら家でどんな目に遭うか、考えるのも耐えがたい。夢に見て、冷や汗をかいて目を覚ます始末だ」(同)
と続きます。
H・M卿って、こういうキャラだったんですね...


原題:And So to Murder
著者:Carter Dickson
刊行:1940年
訳者:白須清美







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