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デボラ、眠っているのか? [日本の作家 森博嗣]

デボラ、眠っているのか? Deborah, Are You Sleeping? (講談社タイガ)

デボラ、眠っているのか? Deborah, Are You Sleeping? (講談社タイガ)

  • 作者: 森 博嗣
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/10/19
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
祈りの場。フランス西海岸にある古い修道院で生殖可能な一族とスーパ・コンピュータが発見された。施設構造は、ナクチュのものと相似。ヴォッシュ博士は調査に参加し、ハギリを呼び寄せる。一方、ナクチュの頭脳が再起動。失われていたネットワークの再構築が開始され、新たにトランスファの存在が明らかになる。拡大と縮小が織りなす無限。知性が挑発する閃きの物語。


Wシリーズの第4作です。
このシリーズは、ロンドンでもしっかりフォローしたいと思っておりまして、中身が中身だけに読み返す必要も出てくるだろうと、既読の分も持ってきています。
この「デボラ、眠っているのか?」 (講談社タイガ)は、2017年8月に読んでいるのですが感想を書けずじまい(書かずじまい?)でした。
だいぶ忘れているので、読み返しました!

前作「風は青海を渡るのか? 」 (講談社タイガ)(感想ページへのリンクはこちら)で百三十年前のコンピュータが再稼働したのちのお話です。

今回、トランスファという存在(?) が大きく取り上げられています。
最初にハギリたちが見つけたトランスファは、デボラと名づけられますが、サリノというウォーカロンを操ってハギリたちと接触を試みます。
「デボラの実体は、単なるコードです。ソフトなんです。」(25ページ)
「ネットワークを介して、あらゆる制御系に高速でアクセスすることができます。」(25ページ)
「人間であっても、そういった機能を体内に装備していれば、そこを狙われます」「ここの警備隊は、全員が人間です。」「しかし例外なく通信が可能なチップを装備しています」(27ページ)
「ようするに、デボラは放てば、あとは学習し、増殖し、目的を達する、というもので、夢のような話だ」(136ページ)
なんだか、すごいですよね。

ここからもお分かりかと思いますが、激しい戦闘シーンが何度かあります。
このシーンが楽しい。
後半の、モンサンミッシェルと思しき(*) 修道院での戦闘シーンなんか、映画を観ているよう。
力でねじ伏せる、という以外に、どうやって切り抜けるか、という点もよくできています。将来ハリウッドで映画化されてもいいですねぇ。(ただ、ハリウッドが作るには、全体のテーマが深すぎるとは思いますが)

人間とウォーカロンの違い、人間とは何か、という点は引き続き取り扱われています。
「発想という行為は、能力なのだろうか。力のように、いつでもすぐ発揮できるものではない。ただ、平均すると、優れた発想を多く取り出せる頭脳とそうでない頭脳があって、そこに明らかな能力差が観察される。そして、僕の知っている範囲では、その発想力を持っているのは、ウォーカロンではなく人間が多い。」(62ページ)
この辺りの考え方は、シリーズを通して慣れ親しんできたものですが、
「ということは逆に、デボラの発想には、どこか人間的なものを感じてしまう。気のせいだろうか。」(168ページ)
なんて感慨を持つシーンに接すると、デボラは人間になりつつあるのか! と警戒(?) してしまいます。
でも未だ
「デボラの発想ではない。
 僕が考えた。
 今思いついたのだ。
 人間しか、思いつかない。」
「単なるインスピレーションだ。
 人間しか、それをしない。
 人間は演算しない。
 偶然。
 そう、偶然だ。
 そんなものに頼るのは、人間だけだ。」(218ページ)
というところもありますので、ちょっと安心(?)。

人間とウォーカロンの違い、人間とは何か、という点は、さらに境地が進んでもおりまして、
「そもそも、この躰というものが、いつまで必要でしょうね」「エネルギィ効率から考えて、すべてをバーチャルにする選択は、けっこう早い段階で訪れる気がします。なにしろ、みんな歳を重ねて、自分の躰に厭き厭きしてしまうんじゃないですか?」(266ページ)
「ただ、それは、僕の躰が実行しているわけではない。僕の頭脳が考えているだけだ。ということは躰はなくても良い。むしろない方が良いともいえる。コーヒーが飲めなくなるとか、散歩ができなくなるとか、諸々考えたけれど、バーチャルの世界においても、きっとコーヒーや散歩が存在し、それを体験し、その感覚を楽しむことが可能だろう。であれば、なにも変わりはないではないか。」(266ページ)
というところまで!!

ウォーカロンの少女サリノの目が赤いのは、きっと「赤目姫の潮解」 (講談社文庫)(感想ページへのリンクはこちら)とつながるんですよね。
「赤目姫の潮解」はいま手元にないので読み返せていませんが、あちらは「意識と身体の分離、というテーマ」ですからね。

シリーズの今後がますます楽しみです。
しかし、真賀田四季、すごすぎ。


英語タイトルと章題も記録しておきます。
Deborah, Are You Sleeping?
第1章 夢の人々 Dreaming people
第2章 夢の判断 Dreaming estimation
第3章 夢の反転 Dreaming reversal
第4章 夢の結末 Dreaming conclusion
引用されているのは、J・G・バラード「沈んだ世界」 (創元SF文庫)です。

(*)
モンサンミッシェルとは書いてありませんが、きっとそうです。
「パリの西方の海岸」(96ページ)
(パリから)「車で三時間以上かかります」(109ページ)
「本来は島だったらしい。潮の満ち引きによって海水に囲まれたり、陸地とつながることがあったという。道路が作られたことで、その堤防の両側に砂が溜まり、現在では島には見えない」(157ページ)
ということですから。


<蛇足1>
「気分転換という意味の分からない古い言葉があるが、おそらくそれだと思われる」(11ページ)
こんなことを言うなんて、ハギリはすでに人間じゃなくなっていますね(笑)!

<蛇足2>
「何ですか、きっちりって」
「ちょっきりとか、ぴったりとか、そんな感じじゃないかな」(34ページ)
というセリフが出てくるんですが、きっちりのほうが一般的な表現ではないでしょうか(笑)?

<蛇足3>
ペィシェンス、という表記があります。
これ、どう発音するのでしょうか? 「ペィ」?
Patience という人名だと思われますが、これ、ペイシェンス、と普通書きますよね? 「ペィ」?

<蛇足4>
「若いときには、新しいものを食べる機会が多く、そのたびにどんなものも美味く感じられたように思う。年齢を重ねると、珍しさも新しさも、どうしても弱くなってしまう。心を動かされるようなことがなくなってしまうのだ」(180ページ)
なるほど...



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