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モリアーティ [海外の作家 アンソニー・ホロヴィッツ]

モリアーティ (角川文庫)

モリアーティ (角川文庫)

  • 作者: アンソニー・ホロヴィッツ
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/04/25
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
『最後の事件』と呼ばれるホームズとモリアーティの対決から5日後、現場を訪れた2人の男――ピンカートン探偵社調査員のチェイスとスコットランド・ヤードのジョーンズ警部。彼らは情報交換の末、モリアーティへの接触を試みていたアメリカ裏社会の首領を共に追うことに。ライヘンバッハ川から上がった死体が隠し持っていた奇妙な紙を手がかりに、捜査が始まる! ドイル財団公認、再読必至のミステリ大作!


長編「モリアーティ」と短編「三つのヴィクトリア女王像」が収録されています。
「シャーロック・ホームズ 絹の家」 (角川文庫)(感想ページへのリンクはこちら)に続く、コナン・ドイル財団公認のシリーズ第2弾!
なんですが、表題作である長編「モリアーティ」には、なんとシャーロック・ホームズは出てきません。タイトル通り、ホームズの宿敵・モリアーティを題材にしています。
捜査にあたるのは、スコットランド・ヤードのジョーンズ警部とピンカートン探偵社調査員チェイス。
いや、面白い組み合わせなんだと思いますし、楽しく読みはしましたが、コナン・ドイル財団公認のシリーズはやはりホームズの活躍を描くべきではなかろうか、という気がしてなりません。
さらに、モリアーティもライヘンバッハの滝で死んでいるわけで、そのモリアーティの後を襲ってロンドンに君臨しようとしているアメリカから渡ってきた犯罪組織の首領を捕まえるという話です。
だいぶ、ホームズから遠くなっていますよね(苦笑)

その点をおいておくと、快調です。
スコットランド・ヤードの警部とピンカートン探偵社の調査員という組み合わせにも、チェイスが語り手をつとめていることにも、最初のうちあれれと思っていましたが、これが意外といける。
ホームズに学んだ、としてジョーンズ警部が推理を披露していくところとか、楽しいんですよ、とても。(暗号がしょぼいのはご愛嬌でしょうね)
「あなたはピンカートン探偵社を辞め、わたしはスコットランド・ヤードを辞める。そうしたら一緒に組もうじゃありませんか」「ベイカー街の部屋にはわれわれ二人が住めばいい。どうですか、この案?」(222ページ)
なんてセリフまでジョーンズ警部から出てきて笑ってしまいました。役どころとして、ジョーンズ警部がホームズで、チェイスがワトスンなんですね。
語り手がチェイスであることへの違和感もこのあたりですっかり解消。
なんとなくバディ物みたいな風情も漂ってきます。
治外法権を無視して、アメリカ公使館に乗り込んでいくシーンなんか、わくわくします。

以下、ネタバレになりますので、途中から色を変えておきます。
帯には有栖川有栖の解説のタイトル「期待に応え、予想を裏切る」と書いた上に、「驚愕の結末が待ち受ける、スリル満点のミステリ大作!」という煽りが。
上で引用したあらすじにも、再読必死のミステリ大作! と。
とこう書いてあると、ミステリを読みなれた方は一定のパターン=叙述トリックかそれに類するもの、を連想してしまい、本書の肝ともいうべきポイントにあっさり気づいてしまうように思います。

登場人物はそんなにいませんし。
レストレイド警部を犯人にするわけないしなー。
ジョーンズ警部も正典では印象に残っていませんが(失礼)、正典から出演している。
もちろん、公認なので正典に出てきた人物を犯人にしても文句を言われることはないと思うんですが、まあ、控えますよねぇ。
となると、犯人になりそうな人って、チェイスしかいないではないですか。これでサプライズと言われましても...
ただ、おそらく帯なんかのリーディングがなくても、結論たどり着く読者多いと思うんですよね。
ホームズものの続編という位置づけなのに、ホームズもワトスンも出てこない。タイトルのモリアーティも死んでいるという設定。
「シャーロック・ホームズ 絹の家」 (角川文庫)と語り手変わっちゃってるし、このあたりいかにもくさいではないですか。
書きぶりも気をつけているようですが、どうもアンフェアな記述があちこちに...
ちょっと残念でした。

とはいえ、全体としては凝りに凝った本格ミステリといえると思います。

同時収録の短編「三つのヴィクトリア女王像」にはちゃんとホームズが登場し、語り手はワトスン!
ストランド誌に掲載されたという体裁の挿絵(表紙絵)まで入っているという手の込みよう。
他愛もないと言ってしまえばそれまでですが、短い中にすっきりとまとめられた本格ミステリです。
ジョーンズ警部も登場します。でもなぁ、ここでは道化扱いですよ、可哀そうに。
「モリアーティ」のほうに
「いまだに不思議でならないのは、ワトスン博士はなぜ小説の中で彼をああも間抜けな人物に描いたのだろうということだ。『四つの署名』 を読んで以来、私はこう確信している。あの冒険譚のなかのアセルニー・ジョーンズは私が実際に知っている男とは似ても似つかないと。断言しよう、スコットランド・ヤードでは彼の右に出る者はいない」(89ページ)
とチェイスが書いてせっかく持ち上げていたのに...
こちらの短編はワトスンが書いた、という設定なので、ジョーンズが馬鹿にされても仕方がないということなんでしょうけどねぇ。アンソニー・ホロヴィッツも意地悪ですよねぇ...

<蛇足1>
チェイスの宿泊するホテルがノーサンヴァーランド・アヴェニューにあるという設定なんですが(89ページ)、ノーサンヴァーランド・アヴェニューの近くには、現在パブ「シャーロック・ホームズ」があります(パブ「シャーロック・ホームズ」のある通りは、ノーサンヴァーランド・ストリートです)。
トラファルガー・スクエアの近くです。
18082018 DSC_0253.jpg
ちょっとニヤリとしてしまいました。

<蛇足2>
「いまの状況を鑑みれば、それほど先の話ではないと思いますし」(276ページ)
という訳があって、がっかりしました。校閲に引っかからないものなんでしょうか?
訳者も校閲者も「鑑みる」を一度辞書で引いてみてはいかがでしょうか?

<蛇足3>
「ストランド街の馬車乗り場はロンドンで一番混んでいますからね。主要な鉄道駅に近いうえ~」(226ページ)
という訳があり、ちょっとひっかかりました。「主要な鉄道駅」というのがこなれてないなぁ、と思ったからです。
原語がわからないのですが、main とか major が使われているんでしょうね。
ひっかかったことはひっかかったのですが、これ日本語で言い換えるの難しいな、とも感じました。なんというのが自然でしょうね? 「大きな駅に近い」くらいにしておくのがいいのかもしれませんね。
(もっとも、原語が terminal だったらずっこけますが。さすがに terminal を主要な鉄道駅と訳すことはないでしょう)
ちなみに場所的には、チャリング・クロス駅ですね。きっと。

<蛇足4>
「リージェント・ストリートに面したカフェ・ロワイヤルの前でジョーンズと待ち合わせていた」(89ページ)
とありますが、カフェ・ロワイヤルは今もあります。ホテルですね。ピカデリー・サーカスの近くです。携帯で撮った雑な写真でも、ピカデリー・サーカスの電飾がご覧いただけるかと。
18082018 DSC_0263.jpg



原題:Moriarty
作者:Anthony Horowitz
刊行:2014年
訳者:駒月雅子








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コメント 2

コースケ

31さま、こんばんは。
「モリアーティ」発売されていたとは知りませんでした。
「絹の家」を読んで、訳者あとがきだかで、この作品に触れて
いたので、いつの間にか発売していて驚きました。

ただ「絹の家」があまり好みでなかったので、購入は
ちょっと逡巡中です(苦笑

by コースケ (2018-08-23 21:13) 

31

コースケさん
ご訪問&nice!、そしてコメントありがとうございます。
こちらに来る直前に日本で刊行されたみたいです。こちらに来てから購入しましたが...

「絹の家」のようなどぎつさはありませんが、別の意味で現代的で、かつ、ホームズも出てきませんしねぇ...
ホームズの公式続編というとらえ方ではなくて、現代ミステリとしてみるのがよいと思います。

by 31 (2018-08-24 05:02) 

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