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捨て猫という名前の猫 [日本の作家 樋口有介]


捨て猫という名前の猫 (創元推理文庫)

捨て猫という名前の猫 (創元推理文庫)

  • 作者: 樋口 有介
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2012/03/11
  • メディア: 文庫


「秋川瑠璃は自殺じゃない。そのことを柚木草平に調べさせろ」とある一本の電話から、哀しい事件は動き出した――。場末のビルの屋上からひっそりと身を投げた女子中学生の事件へと柚木を深く導く“野良猫”の存在。そして亡くなった少女の母親、彼女の通っていたアクセサリーショップの経営者など、柚木が訪ねる事件関係者はいつも美女ばかり。〈柚木草平シリーズ〉最高傑作。


樋口有介の代表的なシリーズ、柚木草平ものの1冊です。
1. 「彼女はたぶん魔法を使う」 (創元推理文庫)
2. 「初恋よ、さよならのキスをしよう」 (創元推理文庫)
3. 「探偵は今夜も憂鬱」 (創元推理文庫)
4. 「プラスチック・ラブ」 (創元推理文庫)←短編集
5. 「誰もわたしを愛さない」 (創元推理文庫)
6. 「刺青(タトゥー)白書」 (創元推理文庫)
7. 「夢の終わりとそのつづき」 (創元推理文庫)
8. 「不良少女」 (創元推理文庫)←短編集
9. 「捨て猫という名前の猫」 (創元推理文庫)
10. 「片思いレシピ」 (創元推理文庫)
11. 「少女の時間」 (創元クライム・クラブ)
と今まで11冊出ていまして、本書「捨て猫という名前の猫」は9冊目、短編集を除くと7冊目の長編となります。

ところが作者による「創元推理文庫版あとがき」には、
「本作の前に出した柚木草平の長編は、二〇〇〇年の『刺青(タトゥー)白書』。ただこれは三浦鈴女という女子大生が主人公ですので番外編。その前の正統柚木ものになると一九九七年の『誰もわたしを愛さない』」ですから、長編は十二年ぶりです。」
とあって、あれれ?
「夢の終わりとそのつづき」 が外されているよ。
今回チェックしてみたら、「夢の終わりとそのつづき」 はもともと柚木草平シリーズの作品ではなかった「ろくでなし」(立風書房)を柚木草平ものに改稿したものなので、カウント外にされたんでしょうね。
ぼくも、「ろくでなし」「夢の終わりとそのつづき」 も読んでいるはずですが、そのあたりの経緯を覚えていませんでした。
関口苑生による解説では、
「本書『捨て猫という名前の猫』は、そんな作者の持ち味が最もよく現れている柚木草平シリーズの第九弾(長編としては六作目)」
となっていて、「夢の終わりとそのつづき」 を含めてカウントされているようですが、長編のカウントがあいません。「夢の終わりとそのつづき」 「刺青(タトゥー)白書」のどちらかをカウント外にされているんでしょうかね?

柚木草平のキャラクターに負うところが多い作品に仕上がっていますが、あらすじにもある通り、柚木が訪ねる事件関係者はいつも美女ばかり。
この美女たちとの会話(尋問?)の連続でミステリとしての骨格が展開されていくのですが、そのつなぎ方がナチュラルに感じられるのが長所かと思います。
いやいや、柚木が訪ねるだけではなく、柚木のところにやってくる少女・青井麦も印象的です。それもそのはず、彼女こそがタイトルの「捨て猫という名前の猫」なんだから。
平凡な(?) 女子中学生の自殺事件と思われたものが、麦が殺されてしまうことによって様相を変えていく、というのがポイントですね。
事件だけではなく、柚木のかかわり方も変わってきます。
そしてもう一人、重要なのが、自殺した少女の父親(あらすじに出てくる少女の母親とは離婚済)。

それにしても、事件の構図のあまりにも醜悪なこと。
「柚木草平の物語は、表面こそ大人ごころをくすぐる甘いオブラートで包まれているが、その実中身はずっしりと重たい内容となっている。樋口有介はそのオブラートの量と厚さを自由自在に調整し、読者をとことん愉しませながら、いつしか重く悲惨な物語の真っ只中へと引きずり込んでいく」
と解説で関口苑生が書いていますが、やるせない感じでいっぱいです。


<蛇足1>
「二千万円の金が具体的にどう動いたのか、今は分からない。」(426ページ)
とありますが、この二千万円って預金小切手の形をとっているんですよね。
プライバシーの問題がありますから事件の捜査でなければ銀行も開示しないと思いますが、こと殺人事件にも関連するとなれば話は別で、振出銀行のところでは、誰が預金小切手を依頼したのか記録が残っているはずなので、警察がその気になれば突き止めることは簡単だと思うんですが...
(マネーロンダリング関連の規制が緩かった時代を背景にしているとは思えませんので、ちょっと気になります)

<蛇足2>
「瑠璃と二人で文字(もんじゃ)焼きを食べて」(101ページ)
とあって、ニヤリ。
昔、もんじゃ焼きの語源を調べたことがあって、wikipedia にも書いてありますが、そのことを思い出しました。

<蛇足3>
「昨夜からの雨模様もどうやら終息、空気もいくらか冷たくなったようで」(124ページ)
とありますが、作中では実際に雨が降っています。
「雨模様」は、「雨が降っている状態」ではなく「これから雨が降りそうな状態」を指していう言葉なので、誤用ですね。

<蛇足4>
「三日前のことを、整理したいんだが」
「いいよ、生理でもなんでも、早くして」(282ページ)
というところを読んで、吹き出してしまいました。
これ、書いてあるから成立するダジャレであって、会話上では成立しないですよね。
こういうのを仕掛けてくるのって、楽しいですね。


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