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黒龍荘の惨劇 [日本の作家 岡田秀文]

黒龍荘の惨劇 (光文社文庫)

黒龍荘の惨劇 (光文社文庫)

  • 作者: 岡田 秀文
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2017/01/11
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
明治二十六年、杉山潤之助は、旧知の月輪(がちりん)龍太郎が始めた探偵事務所を訪れる。現れた魚住という依頼人は、山縣有朋の影の側近と噂される大物・漆原安之丞が、首のない死体で発見されたことを語った。事件現場の大邸宅・黒龍荘に赴いた二人を待ち受けていたのは、不気味なわらべ唄になぞらえられた陰惨な連続殺人だった―。ミステリ界の話題を攫った傑作推理小説。


岡田秀文の作品としては、「秀頼、西へ」(光文社文庫)(ブログへのリンクはこちら)のあと、この月輪シリーズの前作「伊藤博文邸の怪事件」 (光文社文庫)を読んでいますが、感想は書けずじまいになっています。
本書「黒龍荘の惨劇」 (光文社文庫)「2015本格ミステリベスト10」第5位。

「伊藤博文邸の怪事件」を楽しく読んだ記憶があるので、期待して読み始めたところ、うーん、お屋敷ものの常道的展開に、中盤かなり退屈してしまいました。
探偵役の月輪に、警察も常駐するようになったのに繰り返される殺人、というのは構わないのですが、病弱な若い女性とか、座敷牢に閉じ込めてある精神を病んだ男、とか道具立てが揃っており、わらべ唄への見立て殺人に、繰り返される首なし死体という意匠はいいはずなんですが、どうも単調に感じられたんですね。

でも、真相はちょっとイケるな、と思いました。
おいおい、皆殺しかよ、というくらい殺人が繰り返される事件について
「芸術ともいうべき殺人歌劇」(385ページ)
と犯人自らが自賛するのですが、犯人の狙いはミステリ的に素晴らしい。
ただ、この芸術(?) を支えるには相当の筆力がいったのではないかと思います。
「わらべ唄に見立てた連続首切り殺人、複雑怪奇な建築群を擁する旧大名屋敷、座敷牢の囚人、不可解な遺言状、たび重なる犯人消失の不可能状況……といった道具立ては、戦後の横溝正史作品を思わせるけれど、おどろおどろしい怪奇趣味の演出は控えめである。次々と殺されていく漆原家の住人たちは、内面を欠いたゲームの駒みたいに描かれ、邸内に漂う恐怖の気配も、がらんどうのようにつかみどころろがない。これはもちろん、相次ぐ事件のデータを整理して、効率よく伝わるように計算された書き方で、英米黄金時代(一九二〇~三〇年代)のゲーム探偵小説のスタイルを手本にしたものだろう」
と解説で法月綸太郎が書いていますが、この真相は、がらんどう、では納得感を持って伝わってこないですね。
なので、この素晴らしい真相も、やられた!と快哉を叫ぶというふうにはいかず、地味~。
中盤退屈だと思ったのも、ひょっとしたらこの書き方が原因かもしれません。作者の岡田秀文は、「秀頼、西へ」をみても人物描写がだめな作家ではないので、意識的にしたものなのだと思いますが、ちょっとこの真相とはミスマッチだったのではないでしょうか。と言いながら、同時に、この真相はかなり腕のいい作家をもってしても成功させるのが難しい難物ではなかろかと思ったりもしますので、これを作品化した作者の蛮勇(これも褒めているつもりです)に拍手!です。

<蛇足>
物語の途中ではあるのですが、犯人について
「独自のゆがんだこだわりというか、価値観を持っていますから、その行動のすべてを合理で割り切ろうとすると、どうしてもおさまりがつかない端数が出てくるのは仕方ないでしょう」(340ページ)
と月輪が言うシーンがあるのですが、これ探偵がいっちゃだめなんじゃなんですかね(笑)。
犯人が狂人というなら狂人なりの論理を突き止めてもらわないと...




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