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五覚堂の殺人 Burning Ship [日本の作家 周木律]

五覚堂の殺人 ~Burning Ship~ (講談社文庫)

五覚堂の殺人 ~Burning Ship~ (講談社文庫)

  • 作者: 周木 律
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/03/15
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
放浪の数学者、十和田只人は美しき天才、善知鳥神(うとう かみ)に導かれ第三の館へ。そこで見せられたものは起きたばかりの事件の映像――それは五覚堂に閉じ込められた哲学者、志田幾郎の一族と警察庁キャリア、宮司司の妹、百合子を襲う連続密室殺人だった。「既に起きた」事件に十和田はどう挑むのか。館&理系ミステリ第三弾!


第47回メフィスト賞受賞「眼球堂の殺人 ~The Book~」 (講談社文庫)(感想ページへのリンクはこちら)から始まった堂シリーズの第三作です。
第二作「双孔堂の殺人 ~Double Torus~」 (講談社文庫)も読んでいるのですが、感想を書けずじまいです(最近、こんなのばっかりですが)。

ああ、今でもこういう作品を書く作家がいて、ちゃんと受け入れられているんだなぁ、という感想を抱きます。
奇矯な登場人物に、奇矯な建物。
館ミステリにつきものの図面(と数学的なものを説明する図面)が今回もふんだんに盛り込まれています。
しかも、今回は
「五覚堂は『回転する』。大ヒントでしょう?」(32ページ)
などと真相を知ると思われる善知鳥神から冒頭に示唆されるんですよね。

この「回転する」トリックは、この種のミステリにつきものと言ったら叱られるかもしれませんが、ばかばかしいもので、これは笑って流すべきところなんでしょうねぇ。
(数学的なことはわかりませんが、このトリックを「回転する」と表現するのはちょっと違うんじゃないかなぁ、と思いました。)
付随して、いくつかの手がかりをちりばめてあるのはご愛敬ですね。

館をめぐってはもう一つ大きなトリックが仕掛けられているのですが、これもねぇ...
笑ったらいかんのでしょうねぇ。でも425ページの図11で示された(文字通り)絵解きには苦笑してしまいました。
作者も
「滅茶苦茶な仕掛け(トリック)」(426ページ)
と登場人物の一人に考えさせていますが。
それにしても東北って、こんなに土地余っているんですか!?
館ものでは、電気とか水道とかどうしたんだ!? とかも思ったりしますよねぇ。そんなことを言っては興ざめなのはよくわかっているんですが。特にこの「五覚堂の殺人 ~Burning Ship~」 (講談社文庫)では特に。

数学をめぐる蘊蓄は正直うるさいくらいですし、上述の通りトリックにも難点が多いし、過去の因縁が...というあたりの手際もごたごたしているし、登場人物の一人(百合子の友人志田悟)をめぐるエピソードもなんだか蛇足っぽいし、とこう並べるとだめだめな作品のように思えますが、でも、楽しく読めちゃいました。
おそらく、あからさまな手がかりがちりばめられていて、作者の仕掛けをたどっていく楽しみがあふれているから、なのではないかと思います。
個々のトリックや仕掛けは、正直前例がある、ミステリではありふれたものばかり、と言っても構わないくらいのものですが、それらがかえってこの作品を読者にとって「見抜く」楽しさにあふれた作品に仕立て上げてくれているのだと思います。



<蛇足1>
冒頭、善知鳥と十和田の会話で
「7π/3ぶりですね。」
「三百六十五分の四百十八か」(9ページ)
というやりとりがあるのですが、わかりませんでした。
十和田の「三百六十五分の四百十八か」は、四百十八日ぶりだ、ということだとわかるんですが、善知鳥の方がまったく...なんでこんなところに無理数が出てくるんでしょうか!? 天才の言うことはわかりません。

<蛇足2>
いつもいつも噛みついている一生懸命ですが、
「何をそんなに一生懸命に調べているのか気になって」(50ページ)
と登場人物のセリフで出てきた分には、ぎりぎりOKかなと思います。

<蛇足3>
「百合子はきっと、大学の仕事中で」(196ページ)
ここでちょっとあれっと思いました。百合子は大学院生という設定なんですね。
大学院生が仕事!? と思ったわけです。
「彼女がゼミでさまざまな仕事を任され、それらに忙殺されているのは知っている」(257ページ)
とあとで補足のような記述が出てきます。
たしかに、大学生や大学院生の視点から見ると、十分”仕事”なのでしょうね。



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