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目白雑録 2 [日本の作家 か行]

目白雑録 2 (朝日文庫)

目白雑録 2 (朝日文庫)

  • 作者: 金井 美恵子
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2009/07/07
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
小説を書き、本を上梓し、愛する老猫の健康を気遣う日々のなかで出合うさまざまな事象、メディアに現れるさまざまな言説を、金井美恵子が斬りまくる! 素敵で過激な「日々のあれこれ」。大好評エッセイの第2弾。


第1巻の「目白雑録」 (朝日文庫)をずいぶん前に読んでいます。おもしろいと何かで読むか聞くかしたんだったと思います。
日頃の読書傾向とはまったく異なるのですが、おもしろかった記憶があります。
続巻については文庫化されると買って積読という状態を続けてきましたが、ロンドンへ来る際まとめて持ってきたものです。だけど、第1巻を読み直そうと思っていたのに、第2巻からしか持ってきていなかった...不覚。
2004年4月から2006年3月まで雑誌に連載され、2006年6月に単行本が出て、2009年7月に文庫化されたものなので、ずいぶん前に書かれたエッセイで、懐かしいこともいっぱい出てきます。
ちなみに、目白雑録には、「日々のあれこれ」というルビ(?) がふってあります。

「目白雑録」と比べると、楽しみにしていた毒舌が抑え気味のようにも思いましたが、たとえば、
「歩いていける距離にある池袋のシネ・リーブルで『華氏911』を上映していると知人の夫妻に誘われて観に行ったのだが、これはもちろん見る前から愚作とわかっていたものの、クエンティン・タランティーノが審査委員長だった今年のカンヌ映画祭でパルム・ドールだったというのは、これもまあ、あきれたところで無意味だろう。今村昌平の『楢山節考』にもやるパルム・ドールだのだから、と書いていて思い出したのが、9・11の一年後に、世界の九人だったか十一人の映画監督が、それぞれ9分11秒の戦争と平和についての短編を撮ったオムニバス映画がテレビで放映され、ほとんど覚えてはいないのだが、クロード・ルルーシュや今村昌平の短編もあって、そもそも大した水準ではない九本だか十一本の中でも、群を抜いていたのが今村の作品で、戦争中、村で非国民呼ばわりされた男が蛇になっちゃう、という筋。ブーイングするのさえ無駄で、溜息さえ出ない。」(58ページ)
なんて、すごいですよね。
思い出したついでに、ここまで馬鹿にされるとちょっとかわいそうです(笑)。

金井美恵子の筆が向かう攻撃対象は、なんといっても島田雅彦なんですが、それも抑え目です。
《〈「『風流夢譚』の出版自体は罪ではないし、言論の自由として認められるべきだが、出版によって起こり得る事態を想定しなかったことは責められる」と島田雅彦は書いた〉という長いタイトルの回(’02年六月)と、こうタイトルを書きうつしていると、また腹が立ってくるのだが》(69ページ)
と思い出し攻撃(?) までされているし、
「この巻の解説を島田雅彦が書いているが、まったくツマラナイ。絶対なりたくないし、なれないものが またもう一つあった。男の利口ぶった小説家である」(94ページ)
なんて、ひどい言われよう。
がんばれ島田雅彦!

わりと攻撃対象はあちこちにいまして(笑)
「メディチ家といえば、日本では塩野七生の通俗伝記物語で有名なのだろうが」(73ページ)
とさらっと、塩野七生をあしらったりするのは軽い方で、
「歌舞伎というのもまったく苦手で、玉三郎のデビュー当時は、話題の一つとして何回か見物に行ったこともあって、玉三郎は見た眼に美しいからいいのだが、正月のテレビ中継で見た人間国宝の中村雀右衛門について言えば、姉と私の共通の意見として、栗本慎一郎みたいな顔の女形はやだ、ということにつきる。芸だか技だか知らないが、顔がクリモトというのは、いやである。同じ観点から藤間系の顔のでかいデブのおやじたちが派手なフトンのように着ぶくれて女装してヨタヨタ踊る日本舞踊というのも、人間国宝だかなんだか知らないけれど、いやな物の一つだ」(102ページ)
「ヴェネチアの特別金獅子賞とやらを受賞した宮崎アニメというのが私は嫌いで、いやいや見はじめて最後まで見たためしがない。もともとアニメーションというものに興味がないのだが、あの宮崎アニメの絵とストーリーの下品さが、私の許容できる下品さと本質的に別のものなのだろう。相米慎二の映画の間抜けなくどさにも苛立ったし、北野武のバツの悪い間抜けなテンポも苛立つし、それとは次元が異なるが、ヴィデオで初めて見た成瀬巳喜男の『桃中軒雲右衛門』と溝口健二の『名刀美女丸』にも期待が外れる」(112ページ)
あたり、読んでいてニヤニヤ。
当然、対象は人間とは限りませんので、
「京都風の白っぽいお汁のかけそばの上に、でんと載っているニシンの煮いたんは、おいしいのだけれど、ニシン特有の生ぐささがあるし、それに細い小骨が歯にはさまったりして、恋する者の食べる食物ではないだろうし、京都風のソバはグチャグチャしていて最悪である」(70ページ)
というようなくだりも。

金井美恵子はサッカーファンとしても知られているようで(この「目白雑録 2」 (朝日文庫)の解説は田口賢二)、サッカーにも矛先は。
「チャンネルを回すとJリーグの、なんとかとかんとかのゲームをやっていて、これはサッカーというよりピッチでお散歩というか、幼稚園か老人ホームのカン蹴りに近い」(125ページ)
「三浦がゴールを決めた時の、男性ストリッパーの腰振りを模したなんとも下品な劇画センスのダンスも知っている。私がレフェリーだったら、みっともないしエロでさえなくて下手だという理由で、即座にレッド・カードを出して退場を命ずる」(185ページ)
そういえば、
「チェルシーはチャンピオンズ・リーグでスペインのベティスにも負けているのだが、勝つためのチェルシーのガツガツしたプレーを見ているとムカムカしていたので、マンUの圧勝とは言えない一点だが、チェルシーのガツガツしたやり口とロボットじみて魅力に欠ける選手に比べて、マンユーの若手選手たちは下流階級出の不良たちのケンカの素ばしっこい連係プレーを思わせるところが、いいよね、MFは現役の牧羊犬みたいに走るしさあ、などと姉と話しながら、夜中に銀杏を齧ってサッカーを見ていると、なんとなく〈下流〉という気分になる」(198ページ。2005年12月のエッセイ)
と書かれていますが、サッカーは間違いなく下流階級のためのスポーツですから、たっぷりと下流気分に浸るのが正しい観方かと思います(その観点では、ラグビーが上流階級のためのフットボールです)。

悪口の間にあっても...
浅間山の噴火で灰をかぶってしまったキャベツが格安で売られているのを買って“支援”したつもりになっている奥さんや、筑摩書房が倒産した際に著者・学者等がした“支援”のことを取りあげて、
「ようするに、支援(サポート)というのは、ささやかで、決して自分の負担にはならない範囲でできる何かなのであって、どの場合でも、それをすると、経済的な負担(もしかすると、岩波の方が部数を多く出してくれるかもしれない、という幻想の上の)はほとんど軽微なうえに、良心は満足、というものなのかもしれない」(62ページ)
と書かれていて、この種の話題にあうといつもぼんやり思っていたことをすぱっと指摘してもらって満足したりもしますし、
「誰も読んでいない」や「誰も見ていない」という表現をめぐる論考(210ページ~)は、島田雅彦の文章を発端とするものではあるけれども(笑)、視点がおもしろくてためになりました。

文庫化は、次の「目白雑録 3」 (朝日文庫)で止まってしまっているようですね。残りも文庫化してくださいね、朝日さん。


<蛇足>
「海舟の書いたり語ったものより、親父の勝小吉の『夢酔独言』のほうが、ダンゼン面白いことを連想してしまう」(78ページ)
とあって、「~たり、~たり」となっていなくて、おやおや、と思いました。


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