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誰も僕を裁けない [日本の作家 は行]


誰も僕を裁けない (講談社文庫)

誰も僕を裁けない (講談社文庫)

  • 作者: 早坂 吝
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/07/13
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
援交少女にして名探偵・上木らいちの元に、「メイドとして雇いたい」という手紙が。しかし、そこは異形の館で、一家を襲う連続殺人が発生。一方、高校生の戸田公平は、深夜招かれた資産家令嬢宅で、ある理由から逮捕されてしまう。らいちは犯人を、戸田は無実を明らかにできるのか? エロミス×社会派の大傑作!


早坂吝の本を読むのは
「〇〇〇〇〇〇〇〇殺人事件」 (講談社文庫)
「虹の歯ブラシ 上木らいち発散」 (講談社文庫)
に続いて3作目です。
「誰も僕を裁けない」 (講談社文庫)よりも「RPGスクール」 (講談社ノベルス)の方が早く出ているのですが、文庫化の順が逆転しましたね。上木らいちシリーズを先にしたのかな?

「〇〇〇〇〇〇〇〇殺人事件」 にはとても楽しませてもらいましたが、「虹の歯ブラシ 上木らいち発散」 はいまいちピンと来ないというか、肌に合わず、「誰も僕を裁けない」については、期待と不安がひとつになった状態で読み始めました。

「2017本格ミステリ・ベスト10」第6位です。

結論から言っておくと、「誰も僕を裁けない」は期待に十分応えてくれました!
巻頭に舞台となる屋敷の俯瞰図が掲げられていて、まずニヤリ。
もういかにも回りそうなんですよね(笑)。
すると、上木らいちが屋敷を訪れた際、
「館の全貌を把握して最初に思ったのは、いかにも〇りそうな形だな、ということだった。」(96ページ)
とあっさり書かれていて、またニヤリ。
登場人物に本格ミステリ作家を目指している人がいて、上木らいちと館が回るかどうかディスカッションするところでもニヤリ。
「次に挑戦したいのは、本格と社会派の融合--の新しい形というか」
「従来の融合を謳った作品の中には、ほぼ全編ガチガチのトリック小説で、動機だけが取って付けたように社会派というようなものもあって、そうするとトリックの部分が浮いてしまって、かえって本格と社会派の乖離を強調してしまっているだけではないかと。だから俺は本格のルールが現実社会のルールをも侵食し、両者が混然一体となるような、そんな作品を書きたいと思っているのです」(113~114ページ)
ほほう...さて、本書はそうなっていますかね?

とここまで館に来た上木らいちの方の話を先に書きましたが、本書は戸田公平という人物による裁判のシーンのモノローグから幕を開けます。この戸田公平がもう一人の主人公ですね。
高校三年生の戸田公平の夢のような(と書いていいと思います。いい夢か悪夢かは置いておくとして)エロ体験がつづられます。

このエロ話と、館での殺人と、さて、どうつながるのだろう、とミステリ読者としては思って読むわけですが、いやあ、さすが早坂吝、もう脱帽です!
タイトルの「誰も僕を裁けない」というのが、そういう意味だとは、到底思いつきません!
社会派かどうかは、???、ですが、大満足の1冊でした。

そして、作者のあとがき。
ここで、「本格ミステリー・ワールド2017」の「読者に勧める黄金の本格ミステリ」に「誰も僕を裁けない」が選ばれた際に寄せた自作解説が再掲されているのですが、これが含蓄深くて。
「二作品は論理偏重主義がかえって不定解を導き出す点で共通している。しかし『虹の歯ブラシ』が天かける虹のように現実の地表から遊離していたのに対し、本書は人が統治する現実の大地に足を着けたスタンスで書いた。
 したがって、多くの方には本作の方が身近で馴染みやすいかもしれません。一方、私のように『現実なんてクソ食らえ』と思っている人間は『虹の歯ブラシ』の方が好きでしょう。
 もっとも本作にも、現実に向かって特大のクソを投げ付けるような部分はあります(私の作品は概ねそうですが)。この作品が社会派だとはちっとも思わないという読者も多いと思いますが、私は『引きこもりの視点から見た社会』を書いているつもりです。社会という我が物顔に幅を利かせている強大な存在に対して、私と同じような孤独を感じている方には、きっと届くはずだと信じています。」
ちょっと長く引用しましたが、なるほどねー、と。
「虹の歯ブラシ」 が肌に合わない理由がしっかり書かれていました...
早坂吝、注目の作家です!

ところで、「〇〇〇〇〇〇〇〇殺人事件」 の感想、書けていないのですが、実は気になることがあるので、いつか(日本に戻って実物を再び手に取ることができたら)感想を書きたいと思っています。






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