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リヴァトン館 [海外の作家 か行]


リヴァトン館 上巻 (RHブックス・プラス)リヴァトン館 下巻 (RHブックス・プラス)リヴァトン館 下巻 (RHブックス・プラス)
  • 作者: ケイト モートン
  • 出版社/メーカー: 武田ランダムハウスジャパン
  • 発売日: 2012/05/10
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
老人介護施設で暮らす98歳のグレイスの元へ、新進気鋭の女性映画監督が訪れた。「リヴァトン館」という貴族屋敷で起きた70年前の悲劇的な事件を映画化するため、唯一の生き証人であるグレイスに取材をしたいと言う。グレイスの脳裏に、リヴァトン館でメイドとして過ごした日々が、あざやかに蘇ってくる。そして墓まで持っていこうと決めていた、あの惨劇の真相も……。死を目前にした老女が語り始めた、驚愕の真実とは? 気品漂う、切なく美しいミステリ。<上巻>
母とふたりのさみしい暮らしから、上流社会のメイドに。戸惑いつつも、優雅な生活と人々に惹かれていくグレイス。無邪気なお嬢様達、贅沢な料理、心おどる晩餐会……厳格な執事の小言も苦ではなかった。だが、迫りくる戦争で状況は激変する。慌ただしく月日は流れ、グレイスはリヴァトン館とともにたくさんの秘密を抱えこんでゆく。それが、大切なお嬢様をあの悲劇へ導く羽目になるとは知らず――。巧みな伏線と見事な筆致で世界中のミステリファンを魅了した物語。<下巻>


あらすじでお分かりになると思いますが、イギリスのお屋敷で働くメイドの目から第一次世界大戦前後の暮らしぶりを描く小説です。
悲劇的な事件が起こった館。うーん、魅力的な舞台ですね。
「イギリス詩壇の新星が社交界の盛大なパーティの夜に、暗い湖のほとりで自殺する。目的者はふたりの美しい姉妹だけ、彼女たちはその後たがいに二度と口を利かなくなる。ひとりは詩人の婚約者で、もうひとりは愛人とうわさされていた。すごくロマンティックだわ。」(上巻30ページ)
と現代の時点で若き映画監督が語り手であるグレイスに語るのですが、そうなんですよね、ロマンティック。
お屋敷、社交界、執事、メイド、貴族。
いろいろな面で窮屈な生活だったのでは? と思いつつ、ロマンティックに思えます。
事件の背景が、少しずつ、ゆったりと語られる。このテンポも時代や舞台にピッタリです。
登場人物が限られているので、果たして何があったのか、を考えるのはさほど難しくないことだと思いますが、この叙述パターンだと、先の予想がたとえついてしまっても、あまり問題にならないような気がします。もちろん、作者の筆力あっての話ではありますが。そしてその筆力は、確実にあります。

作者ケイト・モートンによる著者解題に
「わたしはかねてより読者として、また研究者として、本書のようにゴシック風の技法を用いる小説に興味を持ってきた。過去につきまとわれる現在。家族の秘密へのこだわり。抑圧された記憶の再生。継承(物質的、心理的、肉体的な)の重要性。幽霊屋敷(とりわけ象徴的なものが出没する屋敷)。新しいテクノロジーや移ろいゆく秩序に対する危惧。女性にとって閉鎖的な環境(物理的にも社会的にも)とそれに伴う閉所恐怖。裏表のあるキャラクター。記憶は信用ならないこと、偏向した歴史としての性格を帯びること。謎と目に見えないもの。告白的な語り。伏線の張られたテクスト。」(下巻328ページ)
とありまして、(当然ですが)ケイト・モートンはこれらの技巧を意識的に使いこなしています。
訳者あとがきに
「戦争の世紀の黄昏ゆく貴族社会、古きよき英国の静かな崩壊の歴史」
と書いてありますが、この滅びの予感が一層物語を魅力的に、ロマンティックに感じさせてくれているのでしょう。

ところでグレイス。
最初はシャーロック・ホームズのファンで、ひそかに読むのが喜び、だったのですが、途中で宗旨替えします(笑)。
「わたしがもうシャーロック・ホームズには傾倒していないのをハンナが知ることはないだろう。ロンドンでわたしは、アガサ・クリスティの作品と出会ってしまっていた。」(下巻47ページ)

そしてこの「リヴァトン館」 上・ 下巻 にクリスティ本人も登場します! (下巻108ページ~)
「当時はまだ『スタイルズ荘の怪事件』 一冊しか発表してなかったが、すでにわたしの想像の世界では、エルキュール・ポワロがシャーロック・ホームズに取って代わっていた。」(下巻108ページ)

池田邦彦のコミック「シャーロッキアン!(4) (アクションコミックス)」の感想(リンクはこちら)にも書きましたが、クリスティやクロフツはコナン・ドイルと活動期間が少しですが重なっているんですよね。改めて思いました。

ケイト・モートンは、
「忘れられた花園」〈上〉 〈下〉 (創元推理文庫)
「秘密」〈上〉 〈下〉 (創元推理文庫)
「湖畔荘」〈上〉〈下〉(東京創元社)
と翻訳が進んできていますね。楽しみです。

<蛇足1>
本書、なぜか「リヴァトン館」だと長い間勝手に思い込んでいました。不思議。
あと、カバーや後ろ側の見返しに、リヴァトン館の「館」の字に「やかた」とルビがふってあって、びっくり。
「リヴァトンかん」と呼ぶんじゃないんですね。

<蛇足2>
「ハンナとエメリンは、括弧の起こしと閉じにように両端にいる」(上巻231ページ)
“(”と“)”のこと、起こし、閉じ、というんですね。よく使うのに呼び方を知らずにいました。





原題:The Shifting Fog (英版タイトル The House of Riverton)
作者:Kate Morton
刊行:2006年
訳者:栗原百代








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