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エラリー・クイーンの冒険 [海外の作家 エラリー・クイーン]


エラリー・クイーンの冒険【新訳版】 (創元推理文庫)

エラリー・クイーンの冒険【新訳版】 (創元推理文庫)

  • 作者: エラリー・クイーン
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/07/20
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
大学に犯罪学の講師として招かれたエラリーが、その日起きたばかりの殺人事件について三人の学生と推理を競う「アフリカ旅商人の冒険」を劈頭に、「一ペニー黒切手の冒険」「七匹の黒猫の冒険」「いかれたお茶会の冒険」など、多くの傑作を集めた巨匠クイーンの記念すべき第一短編集。名探偵による謎解きを満喫させる本格ミステリ全11編に加え、初刊時の序文を収録した完全版。


創元推理文庫で始まった中村有希さんによる新訳のエラリー・クイーンの国名シリーズ。
「ローマ帽子の謎」 (創元推理文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)から始まって、「アメリカ銃の謎」 (創元推理文庫)まで6冊順調に進んできて、次はいよいよ「スペイン岬」だ!と勢い込んでいたら、新訳が出たのはこの「エラリー・クイーンの冒険」 (創元推理文庫)でした。
今月には「Xの悲劇」が予定されていますね。
(ちなみに、「アメリカ銃の謎」 (創元推理文庫)は感想を書けていません。その前の「エジプト十字架の謎」 (創元推理文庫)までの5冊は書けていたのですが...)

この「エラリー・クイーンの冒険」 は11作収録の短編集です。
「アフリカ旅商人の冒険」
「首吊りアクロバットの冒険」
「一ペニー黒切手の冒険」
「ひげのある女の冒険」
「三人の足の悪い男の冒険」
「見えない恋人の冒険」
「チークのたばこ入れの冒険」
「双頭の犬の冒険」
「ガラスの丸天井付き時計の冒険」
「七匹の黒猫の冒険」
「いかれたお茶会の冒険」

帯に推薦コピーがついています。
「名探偵エラリー・クイーンの<精緻にして意外性に富んだ推理>を堪能できる本格ミステリ短編集の精華。まさに論理の冒険。クイーンがすごいのは長編だけではない!」有栖川有栖
「なぜ、誰もがクイーンを目指すのか。この一冊に答えがある。ミステリ史上最も知的な十一の冒険譚。拍手の準備をお忘れなく。」青崎有吾
贅沢ですねぇ。
「エラリー・クイーンの冒険」 にふさわしい豪華さです。

昔読んでいて再読になるわけですが、ほとんど覚えておらず、だいたい初読のように楽しめました。自らの記憶力の悪さに乾杯です!
いずれも端正ですよね。最後の「いかれたお茶会の冒険」はお茶目、というべきかもしれませんが。

しかし、エラリー・クイーンって気障で嫌味ですねぇ。
頭のいい人は往々にしてそうなのかも、という気もしますが。
若いころはそれが格好良くも見えたように記憶しますが、今読むとちょっと...という感じがしないでもない。

巻頭の「アフリカ旅商人の冒険」からして嫌味です。
学生を連れて犯罪学の実地研修、だから上から目線で嫌味いっぱいというのは仕方ないのかもしれないんですが、殺人現場でやりたい放題。父親であるクイーン警視の威を借りているとはいえ...
間違う学生用にいくつかの手がかりが撒かれているのがおもしろいですね。それぞれ興味深い推論が出て来ます。最後にエラリーが指摘する手がかりも楽しいですね。
しかし、「スパーゴは南アフリカに一年間過ごしていて、服はほとんど現地で買っているはずだ」(49ページ)
というのはいくらなんでも思い込みに過ぎない気がします。たった一年なら前から持っている服も使われますよねぇ...

「首吊りアクロバットの冒険 」は、最後の決め手となる手がかりがおもしろい。
この手がかりで犯人と犯行の状況が特定されるのですが、作者は手がかりと犯行状況とどちらを先に思いついたんでしょうね??

「一ペニー黒切手の冒険」は、貴重な一ペニー切手の隠し方が印象的ですが、個人的にはとても希少な切手を隠すのにこの方法は使う気になれないような... どうなんでしょうね?

「ひげのある女の冒険」は、クイーンお得意のダイイング・メッセージ物で、女性の肖像画にひげを書き加えたというものなんですが、そして、解説で川出正樹が
「論理的で無理がなく、数あるクイーンのダイイングメッセージものの中でも一、二を争う傑作」
と述べていますが、これタイトルを見ただけでダイイング・メッセージの意味、想像つきませんか?
あと
「万が一、犯人に気づかれたとしても、恐怖をまぎらわしたくて落書きしたと解釈してくれるでしょうしね。まあ、気づかれない可能性の方が高かったでしょう」(155ページ)
なんてエラリーも言っていますが、犯人絶対気づきますよ、そして消すか肖像画を処分するかされちゃいますよ、確実に。
しかし、この作品の注目は事件でも謎解きでもなく...
おいおい。エラリー・クイーン、看護婦をナンパしようとしていますよ。連絡先を聞き出して...

「三人の足の悪い男の冒険」は、現場で見つかった足の悪い男のものと思われる足跡三組という手がかりが印象的な作品ですが、事件よりも...
「たいへん興味深いです。実に興味深い」(213ページ)
とエラリー・クイーンが言う場面があります。あなたは、ガリレオ湯川博士ですか?

「ガラスの丸天井付き時計の冒険」のエラリー・クイーンもかなり嫌味ですね。
「代数学のもっとも基礎の知識しか持たない高校二年生でさえ解ける方程式レベルの簡単さだよ」(347ページ)
「常識というものを持ちあわせている人間ならだれでも、あの事件を解決できる。五から四を引いた答えが一になる、というレベルの問題だ」(同ページ)
いや、こんなこと言わなくてもいいじゃない?
しかも事件の手がかりが、誕生石だとかある特殊な事情だとかなんだし、そこまで「簡単」というほどの事件ではないと思うんですよね...

しかし、いずれの作品も、手がかりと犯人を突き止めるロジックがすっきりしていて素晴らしいですよね。
長編のように怒涛のように畳みかける謎解きはないですが、キラッと光る要素がかならずある。
ミステリを読む楽しみは、このきらめきに出会うことなので、まさにミステリファンにとって至福の短編集だと改めて思いました。


<蛇足>
「腹立たしげに嗅ぎたばこ入れを取り出して、たばこをひとつまみ、鼻の穴に詰めこんだ。」(33ページ)
とあって、えっ、と思ってしまいました。
嗅ぎたばこ、といえば古典ミステリではちょいちょい出て来ますが(「皇帝のかぎ煙草入れ」 (創元推理文庫)なんてタイトルの名作もありますしね)、実物は見たことがなく、使いかたも知りませんでしたので。
嗅ぐといっても、鼻の穴に詰めるんですね...なんかちょっと怖いです。



原題:The Adventures of Ellery Queen
作者:Ellery Queen
刊行:1934年
訳者:中村有希


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