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ミステリー・アリーナ [日本の作家 深水黎一郎]

ミステリー・アリーナ (講談社文庫)

ミステリー・アリーナ (講談社文庫)

  • 作者: 深水 黎一郎
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/06/14
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
嵐で孤立した館で起きた殺人事件!  国民的娯楽番組「推理闘技場(ミステリー・アリーナ)」に出演したミステリー読みのプロたちが、早い者勝ちで謎解きに挑む。誰もが怪しく思える伏線に満ちた難題の答えはなんと15通り! そして番組の裏でも不穏な動きが……。多重解決の究極 にしてミステリー・ランキングを席巻した怒濤の傑作!!


あらすじにミステリー・ランキングを席巻と書いてありますが、帯もすごいですね。
本格ミステリ・ベスト10 (2016年国内・原書房) 第1位
ミステリが読みたい! (2016年版国内篇・早川書房) 第3位
週刊文春ミステリーベスト10 (週刊文春2015年12月10日号国内部門) 第4位
このミステリーがすごい! (2016年版国内編・宝島社) 第6位

読み終わってみて、作者の狙いはよくわかりましたし、各種ベスト10で高評価なのも理解しましたが、残念ながら好き・嫌いでいうと、好きではないですね。

まず娯楽番組内での推理クイズ、なわけです。ここが好きではない最大のポイント。
多重解決ものは好きなんです。最初に読んだ「毒入りチョコレート事件」 (創元推理文庫)には本当にしびれたものです。
でもね、それをゲーム形式にして劇中劇、作中作の枠組みでやるのはどうもねぇ。
ゲーム形式ということは、実際に起こった事件、という裏付けがなく推理合戦をするわけですから、現実的というか現実性というかの担保がそもそもないんですよね。
そしてその劇中劇、作中作を作った人というのがいるわけで、使いかたによっては、なんでもあり、な状況になってしまいます。ルールも後から勝手に追加できそう。
これだと、推理の楽しみが減ってしまうような気がするんですよ。
作中作の方が、現実性がない方が、ピュアに論理に淫することができる、という意見もあるとは思うんですが、すっきりしないんですよね...
その点は作者も意識されていることがわかる部分があちこちにあります。
そして多分その点を逆手に取って、ロジックに淫したというのか、この設定を突き詰めたというのか、そうですね、多重解決ものの極北にたどり着こうとした、というのがこの作品の狙いなんだと思います。
収録されている「文庫化のためのあとがき」に狙いが説明されてはいますが。

もう一つ。あらすじに「番組の裏でも不穏な動き」と書かれている部分。
おもしろい発想だな(と言うと人でなしかと思われてしまいそうですが)と思ったのですが、これ、この物語に必要でしょうか?

ついでに突っ込んでおくと...
出題者側は予想される解決をあらかじめ想定して物語を作っている、という設定になっています。
15ある解決案、となっていますので(数は確認していません)、15通り想定した、という風に書かれていますが、15通り用意してもだめで、それぞれの解決がどの順序で出てくるのかによっても、話の流れは変わってしまうので、15通りの解決の並び方を想定すると、15の階乗、すなわち約1兆3700億通りのストーリーを用意しておかなければならないことになります。
もちろん、ある程度は順番も予想できるとはいえ、たとえばほぼ半分の8個の解決案でも4万通り。5個にしても120通りのストーリーの用意が必要です。
無理じゃない??

と好きではないこと(とアラ)をるる述べましたが、好きではないけれども、たとえば年間ベストを選ぶ際には、本書を選ぶと思います。
本当にすごい作品なんですよ、これ。各種ベスト10で高評価なのも納得の作品です。
ミステリファンなら、読み逃すのがもったいない傑作だと思います。
ただなぁ...どうしてもなぁ...この傑作を「大好き」と言えないのがとても残念。

<蛇足>
「俺はこの<車に乗っていてもうちょっとで死ぬところだった自慢>を、<学生のテスト前の勉強してない自慢>や<サラリーマンの寝てない自慢>、それに<いい年をした大人の若い頃はワルだった自慢>などと並ぶ、世界の四大どうでもいい自慢とひそかに名付けている」(34ページ)
おもしろい!

<蛇足2>
平清盛が「たいらきよもり」、平将門が「たいらまさかど」と「の」が入る理由が説明されていて勉強になりました。(317ページ~)
まず天皇から賜った本姓というのがあり、これが一族の名前。
子孫が枝分かれして増えると区別するために、住んでいる土地の名前や官職名にちなんでつけたのが名字で、これは家の名前。
で、本姓のときに「の」をつけ、名字のときは「の」をつけない。
徳川家康のフルネームは、徳川二郎三郎源朝臣家康で、徳川が名字、二郎三郎が通名、源が本姓、朝臣が姓(かばね)、家康は諱、と説明されています。元々の名字は松平で、藤原氏の胤になるが、源氏の嫡流に近い新田家の《得川》を買い取って、それ以降徳川と名乗った、と。
で、豊臣秀吉の豊臣は天皇から下賜された本姓だから、〈とよとみひでよし〉と読むのが正しい、そうです。


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