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白の恐怖 [日本の作家 あ行]

白の恐怖 (光文社文庫)

白の恐怖 (光文社文庫)

  • 作者: 鮎川 哲也
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2018/08/08
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
軽井沢の豪奢な別荘「白樺荘」に、莫大な遺産を相続することになった四人の男女が集まった。だが、生憎の悪天候で雪が降りしきり、別荘は外とは連絡が取れない孤立状態になっていた。そこで、一人、また一人と殺人鬼の毒牙にかかって相続人が死んでいく……。本格推理の巨匠が描いた密室殺人。発表から六十年近い年月を経て、初めて文庫化される幻の長編!


山前譲の解説によると1959年12月に刊行されたもの。文庫になるのは初めてのようですね。
ずっとずっと読みたかった作品です。
作者が亡くなる前まで「白樺荘事件」として改稿されているところだった、ということですから、正確にいうと、この「白の恐怖」 (光文社文庫)を読みたかった、というよりは、改稿なった「白樺荘事件」を読みたかったですね。(「白樺荘事件」は未完のまま「鮎川哲也探偵小説選」 (論創ミステリ叢書)に収録されているそうです)
併せて、短編「影法師」とエッセイが3編収録されています。

正統派の吹雪の山荘ものです。
もうこれだけで胸がいっぱいになりそうですが、250ページに満たないなかで堂々と展開されます。ちょっとあわただしい展開ではありますが。
ただ、鮎川哲也には「りら荘事件」 (創元推理文庫)という大傑作があって、それと比べるとやはり軽量級というか、あっさりしている印象ですね。
(鮎川哲也というとすぐにアリバイもの、という印象を持たれる方もいらっしゃるかもしれませんが、アリバイに限定することなく、密室だって、お屋敷ものだって、優れた作品を残していますので、ぜひいろいろと手に取ってみてください)

それでも短い中にも、「おっ」と思うようなアイデア、ギミック、仕掛けが数多く盛り込まれていまして、楽しいです。
こういった小技(と呼んでは失礼かもしれませんが)が効いているのは、「りら荘事件」 も同じですね。

もったいないな、と思ったのは、名探偵星影龍三ものでありながら、星影龍三がほとんど出てこない、ということですね。
事件に居合わせた弁護士の手記、という形で物語がすすみ、そのあとでさっと星影龍三が解決する、という構図になっていまして、犯人対名探偵、という形をとっていません。
これはこれで、あり、な形式かとは思うのですが、ちょっと物足りない気もします。
とはいえ、登場人物がどんどん減っていって、読者にも見当がつきやすくなってきたかな、というところで、さっと幕を引いて仕掛けを明かしていく、この手際が鮮やかでした。
犯人の犯行の手際も鮮やかですが、それを読者に明かす作者の手際も鮮やかです。ここは見どころなのでは、と思いました。

現状の「白の恐怖」版でもシンプルだけれども効果的なタネが仕掛けられていますので、改稿されていればもっともっとふんだんにネタがぶちこまれて、「りら荘事件」 ばりの濃密な長編に仕上がっていたことでしょうね。
完成していればどれほどの作品になったことか、本当に残念です。


<蛇足>
「その腕のなかで、傲慢で気取り屋の千万長者はすでに一個の物体と化して、ぴくりともしなかった」(120ページ)
当時の金銭感覚がわかりませんが、百万長者ではなく千万長者という表現が目を引きました。

<蛇足2>
「やがて白い土(ど)まんじゅうができ上ると」(131ページ)
土に「ど」とフリガナが振ってあります。これ、「どまんじゅう」と読むんですね。
ずっと今まで、「つちまんじゅう」だと思い込んでいました。

<蛇足3>
「くらい顔をしてますと血液がアチドーチス現象を起こしますからな」(148ページ)
アチドーチス、いまの書き方だとアシドーシスでしょうか。
酸血症とか、酸性血症とか言うようですね。
血液のPHバランスが酸性側に崩れる症状みたいです。

<蛇足4>
「ぼくはチンメルマンの漫画をはじめてみたとき、ショックをうけて熱がでたくらいですけど、」(153ページ)
チンメルマンの漫画って、何でしょう? ちょっと調べてもわかりませんでした。
Zimmermann? Zimmermannでもわからないんですが......

<蛇足5>
「億万長者の未亡人にしてみればほんの目くされ金にしかすぎない。」(232ページ)
「目くされ金」という表現、久しぶりに見ました。
なかなかどぎつい表現ですね。めくされがね...
時代を反映してか
「道徳もへちまも」(234ページ)
などという言い回しも出て来ます。ちょっと笑えました。

<蛇足6>
ネタバレなので字の色を変えておきますが、動機のところで印象に残るセリフがありました。
恋にくるった女がとんでもないあやまちをやった話は、あなたもいろいろご存知なはずじゃないですか。篠崎ベルタは異性を恋するかわりに金銭を恋した、ただそれだけの相違ですよ。恋する女が盲目であることは、篠崎の場合もおなじです。」(233ページ)




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コースケ

31さま、こんばんは。

私も本作が文庫化したときは、ついに読むことができる!
と感動しました。
星影龍三が全くブレていない(ブレない)態度なのが好きですね。
しかも自ら推理を語らないという。
ただ仰る通り、本当に最後しか出てこないので、
その点は残念です。

鬼貫警部ものを多く書かれたので、その分星影龍三シリーズが
少ないのが、今となってはとても残念で、
もっと読みたかったなと感じました。
by コースケ (2019-08-13 18:45) 

31

コースケさん、いつもありがとうございます。
返信おそくなりすみません。

星影ものがもっともっとたくさん書かれていたらな、と思いますよね!

by 31 (2019-08-18 01:59) 

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