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エムブリヲ奇譚 [日本の作家 や行]

エムブリヲ奇譚 (角川文庫)

エムブリヲ奇譚 (角川文庫)

  • 作者: 山白 朝子
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2016/03/25
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
「わすれたほうがいいことも、この世には、あるのだ」無名の温泉地を求める旅本作家の和泉蠟庵。荷物持ちとして旅に同行する耳彦は、蠟庵の悪癖ともいえる迷い癖のせいで常に災厄に見舞われている。幾度も輪廻を巡る少女や、湯煙のむこうに佇む死に別れた幼馴染み。そして“エムブリヲ”と呼ばれる哀しき胎児。出会いと別れを繰り返し、辿りついた先にあるものは、極楽かこの世の地獄か。哀しくも切ない道中記、ここに開幕。


作者山白朝子はいわゆる覆面作家で、「死者のための音楽」 (角川文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)の東雅夫による解説でも正体を伏せられていましたが、この「エムブリヲ奇譚」 (角川文庫)の千街晶之による解説でも、「その正体は今では周知の事実だが」と書かれているものの伏せられています。
乙一の別名ですね。

「エムブリヲ奇譚」は連作短編集ですね。
「エムブリヲ奇譚」
「ラピスラズリ幻想」
「湯煙事変」
「〆」
「あるはずのない橋」
「顔無し峠」
「地獄」
「櫛を拾ってはならぬ」
「『さあ、行こう』と少年が言った」
の9編収録です。
すべて怪談専門誌『幽』に掲載されたものです。

旅本作家の和泉蠟庵が狂言回しをつとめます。蠟庵のお伴(荷物持ち)をつとめるのが、博打好きの耳彦です。時代背景は、よくわかりません。江戸時代のような、明治時代のような...
旅先で怪異に出会うというのが基本のフレームワークです。

「エムブリヲ奇譚」では、小川のそばで、堕胎専門の産院から捨てられた、小指くらいの大きさの胎児(エムブリヲ)を耳彦が拾います。もう死んでいると思ったら、なんと生きていて(!)、耳彦が育てます(!!)。胎内でないと育たないといわれるエムブリヲの行く末は、乙一ならではだと思いました。

「ラピスラズリ幻想」は、書物問屋ではたらいている輪という女の子が蠟庵と耳彦について旅に出ます。旅先で老婆に瑠璃(ラピスラズリ)をもらって輪廻を繰り返します。

「湯煙事変」は、死んだ人がつかりにくる(?)温泉の話です。耳彦の幼馴染がその死んだ人、というのがポイントですね。

「〆」は、ありとあらゆるものが人の顔の形をしている村に行きつきます。食べ物すら人の顔。これは嫌だなぁ、と強く思いました。生理的嫌悪、というレベルでアウトですね。
この物語の耳彦の行動、すごくよく理解できたのですが、さて、耳彦サイドと蠟庵サイド、どちらが普通なのでしょうか?

「あるはずのない橋」は、四十年も前に落ちてしまったのに、夜にかかる刎橋の話です。その刎橋には死者がいます。息子を死なせてしまったと後悔している老婆が息子と会いに行き...
いつもの乙一節とは違う着地だな、と感じましたが、一方で、これはこれで乙一かな、とも思いました。

「顔無し峠」では、迷った末にたどり着いた村で、耳彦が別人(喪彦)と間違われます。「あるはずのない橋」と打って変わって、きわめて乙一らしい作品だな、と感じました。

「地獄」は悪者の策にはまって耳彦は井戸に幽閉(?)されてしまいます。井戸には先客、余市とふじがいて...。これは、まさしく地獄、ですね。でも、ラストの地獄絵図の凄さと来たら...

「櫛を拾ってはならぬ」は、耳彦が休養中(?) に蠟庵に雇われた男を襲う悲劇を描いています。
蠟庵みたいな旅本作家になりたいという若者だったのに、可哀そうに...
櫛を拾うときには、一度、足で踏んでから拾わないと、苦死(苦しみと死)を拾うことになってしまう、という言い伝えを背景にしていますが、蠟庵が合理的(?) な解釈を打ち出すところが異色ですね。

「『さあ、行こう』と少年が言った」は、一転して、蠟庵の少年時代の姿を旧弊な地主の家に嫁いだ若妻の目から語る異色作です。
しかし、この作品のラストで示される蠟庵の悪い癖=迷い癖は、もう癖というレベルではなく、神隠しとか天狗攫いとか、もう怪異現象ですよね...


シリーズはこのあと「私のサイクロプス」 (角川文庫)が出ています。

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