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儚い羊たちの祝宴 [日本の作家 や行]

儚い羊たちの祝宴 (新潮文庫)

儚い羊たちの祝宴 (新潮文庫)

  • 作者: 米澤 穂信
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2011/06/26
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
夢想家のお嬢様たちが集う読書サークル「バベルの会」。夏合宿の二日前、会員の丹山吹子の屋敷で惨劇が起こる。翌年も翌々年も同日に吹子の近親者が殺害され、四年目にはさらに凄惨な事件が。優雅な「バベルの会」をめぐる邪悪な五つの事件。甘美なまでの語り口が、ともすれば暗い微笑を誘い、最後に明かされる残酷なまでの真実が、脳髄を冷たく痺れさせる。米澤流暗黒ミステリの真骨頂。


米澤穂信の作品の感想を書くのは、「リカーシブル」 (新潮文庫)(感想ページへのリンクはこちら)に次いで2作目で、なんと(自分でなんとと言ってりゃ世話はないですが)4年ぶりです。
文庫化された作品はすべて買ってあるというのに......
この「儚い羊たちの祝宴」 (新潮文庫)は、
「身内に不幸がありまして」
「北の館の罪人」
「山荘秘聞」
「玉野五十鈴の誉れ」
「儚い羊たちの晩餐」
の5編収録の連作短編集です。

あらすじには「米澤流暗黒ミステリ」、帯には「新世代ミステリの旗手が放つ衝撃の暗黒連作」とあります。
甘い気持ちで読めば、痛い目に遭う連作ですが、でも、米澤穂信の作品、もともとそんな甘々なものではなかったし、ダークなテイストであることに間違いはないのですが、ことさら「暗黒」なんて強調しなくてもよいような気もします。すなおに(?) ダークさを表に出しているからでしょうか。
江戸川乱歩命名の、奇妙な味、の連作ととらえることも可能な作品群です。

いずれの作品にも「バベルの会」という読書会が登場します。
お金持ち(名家という語の方がふさわしいでしょうか)の御令嬢が集まる読書会です。
また、いずれの作品も最後の一行が極めて印象的に仕上がっています。まさに最後の一撃(フィニッシング・ストローク)。

「身内に不幸がありまして」は、このアイデアを正面切ってミステリに仕立てる人がいるとは思いませんでした! と言いたくなるようなアイデアを使っています。でも、このアイデアを表に出してくるラストよりも、途中の展開に背筋が凍る思いがしました。

「北の館の罪人」は、地域に君臨する六綱家の屋敷の別館に住むことになった隠し子、あまりの視点で、同じく別館に幽閉されている当主の兄・早太郎との生活を描いています。淡々と描かれる生活が、すとんと形を変えるところが見事だと思いましたが、早太郎の絵をめぐるラストのセリフがとてもとても印象に残ります。

「山荘秘聞」は、別荘地で知られる八垣内(架空の地名でしょうか?)にある飛鶏館と呼ばれる山荘の管理人、わたし屋島の生活を描いています。1年間でただのひとりも客が来ず、何も起こらず平らな日々が、遭難した山岳部の越智を助けたことから急展開。
ただ、このラストは個人的には期待外れでした。いや、この言い方はフェアでないですね。
このラスト、誤読していました。
なぜ誤読がわかったかというと、ほかの方のHP、こちらこちらそしてこちら(いずれも勝手リンクをはっております)を拝見したからです。
この作品ラストの一行が、単行本から変更されているそうで、それを見ると誤読であることがはっきりします。
でもなぁ、誤読の方がこの連作にはふさわしい気がするんですけどねぇ、と負け惜しみ。

「玉野五十鈴の誉れ」は、チェスタトンの短編「イズレイル・ガウの誉れ」(「ブラウン神父の童心」(創元推理文庫)収録)を踏まえた作品です。
地方の名家に生まれた主人公純香は、君臨する祖母がつけてくれた使用人・玉野五十鈴と親しく暮らしていたが、運命は急転し...
絶望の淵に突き落とされた純香がたどる思考が見事で、とりわけラストの一行の破壊力が凄まじいですね。正直、あまりに凄すぎて笑えてしまうほどです。

最後を飾る「儚い羊たちの晩餐」は単体でインパクト十分なだけではなく、「バベルの会」をめぐるエピソードもインパクト十分です。なにしろ冒頭に「バベルの会はこうして消滅した」と宣言されているのですから。途中で明かされる「バベルの会」の会員要件(?) も印象深い。
厨娘(ちゅうじょう)という特別な料理人夏(なつ)を雇った成金大寺の娘鞠絵の手記という体裁です。
そしてその厨娘に、アミルスタン羊の料理を命じる...
アミルスタン羊! アミルスタン羊といえば、「特別料理」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)ですよね。作中でも言及されています。
この「儚い羊たちの晩餐」に出てくるその他の作品名は、アイリッシュの「爪」(「世界推理短編傑作集5」 (創元推理文庫)収録)、ロアルド・ダール「豚」(「キス・キス」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)収録)、ロード・ダンセイニ「二壜のソース」(「世界推理短編傑作集4」 (創元推理文庫)収録)。一貫していますね(笑)。絵画ですが、ジェリコーの「メデューズ号の筏」まで出て来ます。
本書の巻末を飾るにふさわしい作品だと思います。タイトルにもニヤリ(としたら性格破綻者でしょうか?)

米澤穂信、やはりおもしろい。
買いだめ(?) してありますので、読み進めるのがとても楽しみです。















タグ:米澤穂信
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