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闇と静謐 [海外の作家 あ行]

闇と静謐 (論創海外ミステリ)

闇と静謐 (論創海外ミステリ)

  • 作者: マックス アフォード
  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2016/06
  • メディア: 単行本

論創社HPの内容紹介から>
ミステリドラマの生放送、現実に殺人事件が……。ラジオ局で発生した停電中の密室殺人に始まる不可思議な事件の数々にジェフリー・ブラックバーンが挑む! シリーズ最高傑作と評される第3作"The Dead Are Blind"が、原著刊行から79年の時を経て遂に邦訳!


単行本です。「2017 本格ミステリ・ベスト10」第9位。
論創海外ミステリ172。
この叢書、あらすじがないんですよね。
上の論創社HPからの引用も、あらすじと呼ぶには足りないですね.....
ということで、訳者あとがきから引用します。

物語は一九三二年五月十五日、英国放送協会(BBC)の新社屋、ブロードキャスティング・ハウスの完成を祝し、各界の有名人を招いた記念式典に、我らがジェフリー・ブラックバーンと、スコットランドヤードのジェイミソン・リード主席警部が招待されるところから始まります。式絵tンに続いて行われたラジオドラマ『暗闇にご用心』の生放送中、新進女優のメアリ・マーロウが突然亡くなるという大ハプニングが発生。当初は心疾患による病死との診断が下されたのですが、死因に不審な点が多いのが気になったジェフリーは他殺を疑い、独自の捜査に乗り出します。放送中のスタジオは内側から鍵が掛かっており、外部からの侵入は不可能。検視にあたったコンロイ医師のもと、新たな事実が明らかになります。その後事態は二転三転し、ジェフリーがたどり着いた真相とは……。


マックス・アフォードの本を読むのは「魔法人形 世界探偵小説全集 4」(国書刊行会)以来ですね。
「百年祭の殺人」 (論創海外ミステリ)は購入してあるものの未読ですので。
「魔法人形」はもうすっかり忘れてしまっていまして、おもしろかったかどうかすら定かではありません。
でも、この「闇と静謐」 (論創海外ミステリ)はとてもおもしろかったですね。

タイトルの意味は冒頭いきなり出て来ます。
『ジェフリーが今後、どのような事件に遭遇する運命にあろうとも、かの「暗闇と静謐の驚くべき事件」は、その記憶に今もなお鮮やかに刻まれているのは、彼をよく知る立場である私が何よりわかっている」(9ページ)
ーーここ、なぜ闇と静謐と訳さなかったのでしょうね? あるいは邦題を暗闇と静謐にしなかったのでしょうね? それと、この文章ちょっと日本語としておさまりが悪いですよね...
まあ、これを見ても何のことかよくわからないわけですが、BBCのラジオドラマ上演収録時に起こった殺人事件ということを考え合わせると、わかったような、わからないような......

ミステリとしての建付けは、ネタバレを含みつつ、大山誠一郎が「オーストラリアのクイーンズランド」と題した解説で詳細に書かれていまして、もうそれ以上素人が付け加えようもありません。

訳者あとがきにもある通り、二転三転する事件の様相が読み応えたっぷりでした。
また、これも受け売りですが(法月綸太郎の評論からの孫引きになるかも)、鍵のかかったドアを中心に空間を切り分けて事件の様相を考察すると、とてもおもしろい構図になっていたんですね。
(そういえばこの解説で名の挙がっているエラリー・クイーンの「スペイン岬の謎」 (創元推理文庫)のことが大好きだったのを思い出しました。新訳が出るのがとても楽しみになってきました)

殺人の方法が、いままで読んだことのない感じの殺し方で、びっくりしました。ちょっと大げさかもしれませんが。
ただ、この殺し方、「実に見事な手口と言うべきだな」(154ページ)と監察医がいうのですが、うまくいくかなぁ、と心配になりました(犯人を心配する必要はないですが)。
「物音ひとつ出さず、傷もつけず、血も流さずに人を殺す。検視ではどんな医者もお手上げの兆候を見せる死にざま。」(155ページ)
と続けて監察医が解説しているものの、血は流れるんじゃないかと素人考えですが思います。
とはいえ、この殺し方はミステリとしてのキーポイントではありません。血が流れて、あからさまな殺人であっても、ミステリとしての傷にはならない構成になっています。
安心してお読みください(?)。

「百年祭の殺人」を読むのはもちろん、「魔法人形」も読み返してみなければ、と強く思いました。


<蛇足1>
「教育の行き届いたポーターがゲストを休憩室(ホワイエ)へと誘導する」(28ページ)
ホワイエに休憩室と訳語がついていますが、違和感がありますね。日本語の感覚では、ホワイエはどちらかというと、ロビーに近いのではないかと思うのですが。

<蛇足2>
「『暗闇にご用心』の舞台は、田舎屋敷のダイニングルームです」(40ページ)
田舎屋敷...... 原語はおそらくcountry house で、逐語訳すればたしかに田舎屋敷ですが、これまた... 今やカントリーハウス、でよいのではないかと思うのですが。

<蛇足3>
「今夜、君の下着の中ではアリがはい回っているのかね?」(118ページ)
落ち着かないジェフリー・ブラックバーンにリード警部がいうセリフなのですが、おもしろい言い回しですね。
同じページに「肩を丸め」という表現も出てきます。これもおもしろい表現だと思いました。肩ってどうやって丸めるのでしょうね? 背中を丸めるはわかるのですが......似たような状況を指すのでしょうか?

<蛇足4>
リード警部とジェフリー・ブラックバーンが住んでいる場所のことを、この本では、アパートと呼んだり(たとえば11ページ)、フラットと呼んだり(たとえば184ページ)しています。どうして統一しないのでしょうね??

<蛇足5>
「ジェフリーとリードは、味はいいが、どこがいいのかさっぱりわからない昼食をともにしながら」(185ページ)
意味がわかりません......原文を確認したくなりますね。
(こういうときはまず間違いなく誤訳ですから)

<蛇足6>
「きっと役に立つ手がかりがふくまれているかもしれません」(188ページ)
きっと~かもしれません、というつながり方は珍しいですね。呼応していないと思います。

<蛇足7>
「昨日の午後、ロンドン郵便局本局(GPO)の、EC1管轄区から投函されたということしかわからなかった。」(188ページ)
EC1管轄区という訳語を見て、なるほどなぁ、と思いました。
EC1というのは、イギリスのPOST CODE、日本でいう郵便番号にあたります。地域をある程度特定できるわけですね。管轄区という呼称は正しくないかもしれませんが、雰囲気をよく伝えていると思います。

<蛇足8>
「殺人事件の九十パーセントは状況証拠で有罪が宣告されているじゃないですか。」(205ページ)
なかなか衝撃的なセリフですね。
さらにこのあたりのセリフ、結構支離滅裂なんで要注目です。
「謎解きなら、やめたまえ」というリード警部の直前のセリフも文脈からして意味不明ですし(謎を解くサイドではなく、謎を提出するサイドならわかります)。



原題:The Dead are Blind
作者:Max Afford
刊行:1937年
訳者:安達眞弓





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