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片桐大三郎とXYZの悲劇 [日本の作家 か行]

片桐大三郎とXYZの悲劇 (文春文庫)

片桐大三郎とXYZの悲劇 (文春文庫)

  • 作者: 倉知 淳
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2018/08/03
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
元銀幕の大スター・片桐大三郎(現芸能プロ社長)の趣味は、犯罪捜査に首を突っ込むこと。その卓越した推理力と遠慮を知らない行動力、濃すぎる大きな顔面で事件の核心にぐいぐい迫る! 聴力を失った大三郎の耳代わりを務めるのは若き付き人・野々瀬乃枝。この絶妙なコンビが大活躍する最高にコミカルで抱腹絶倒のミステリー!


「2016 本格ミステリ・ベスト10」第2位。
「このミステリーがすごい! 2016年版」第7位。
週刊文春ミステリー・ベスト10 ベスト第6位。

倉知淳の作品の感想を書くのは初めてです。
好きな作家で文庫化されると必ず買ってはいるんですが.....2010年に読んだ「とむらい自動車 (猫丸先輩の空論)」 (創元推理文庫)以来です。僕が読んだのは、リンクを貼ってある創元推理文庫版ではなく、講談社文庫版でしたが。

国民的時代劇スター・片桐大三郎とは、こんな人……というのが、帯にあります。
・犯罪捜査に首を突っ込み、事件を解決したがる。
・歌舞伎の名門の生まれ。18歳から映画界の入り大スターとなるが、
 古希を過ぎて聴力を失い引退。
・大きな顔面で、不適に笑う。他人の迷惑など一切顧みない。
・豪快だが、実は優しいところもある。
・大酒を呑むが、甘い物に目がない(老舗「駿河屋」のたい焼きが好物)。
・特殊捜査課の刑事が、助言を求めて直接やって来る。
・付き人の乃枝に「デカ顔大明神」と陰で言われる。
・「この片桐大三郎、金なんぞじゃ動かねえ」とカッコいいことを言う。

冬の章 ぎゅうぎゅう詰めの殺意
春の章 極めて陽気で呑気な凶器
夏の章 途切れ途切れの誘拐
秋の章 片桐大三郎最後の季節
と章立てになっていまして、長編らしい仕立てですが、連作短編集ですね。

「ぎゅうぎゅう詰めの殺意」を読むと、満員電車での毒殺、ということで、エラリー・クイーンの「Xの悲劇」 (創元推理文庫)を思わせる内容。
ちょっとミステリ的には難あり、と思われます。殺害方法とその後の偽装方法。特にコートの取り扱い(「被害者のコートとスーツの上着、ワイシャツにも、ほぼ一直線上の位置に注射針が貫通した痕跡が残っていました」42ページ)には大きな疑問を感じざるを得ません。
また、乃枝が片桐大三郎に命じられて、満員電車に乗り込んでカメラでビデオ撮影するところがあるのですが(94ページ)、満員電車でビデオ撮影なんて可能なんでしょうか? いろいろと無理がある気がします。
と、ミステリ的には難あり、の作品のように思いましたが、まずは紹介編でしょうから、楽しく読めたので〇。

「ぎゅうぎゅう詰めの殺意」がエラリー・クイーンの「Xの悲劇」 (創元推理文庫)を思わせる内容で、通しタイトルが「片桐大三郎とXYZの悲劇」(文春文庫)
しかも探偵役片桐大三郎は、耳が聞こえない。
おやおや。

続く「極めて陽気で呑気な凶器」は、凶器がなんとウクレレ!
おあつらえ向きに(?) 子どもも登場します(「Yの悲劇」 (創元推理文庫)のことを考えて伏字にしています)。
ウクレレで殺した理由がものすごく単純ながら納得感あり、その点ではマンダリンを凶器にするのに苦労して(?) 仕掛けを施していた「Yの悲劇」よりすっきりしていますね。

「Zの悲劇」 (創元推理文庫)をよく覚えていないので、「途切れ途切れの誘拐」がどの程度「Zの悲劇」を想起させるものになっているのかわからないのですが、「Zの悲劇」は監獄が舞台だったし、誘拐ものではなかったと思いますので......あるいは、ペイシェンスが活躍したように、たとえば乃枝が活躍するのか、とも思いましたが、そういうわけでもないみたい。
ベビーシッターが殺され、赤ん坊が誘拐されるという卑劣な犯罪を扱っているのですが、真相は震撼ものです。
身代金三億円なのですが、
「まず、現金で三億円を用意してください。それを運びやすいバッグ一個にまとめてください。運び役は、貴島さん、あなたの奥さんにやってもらいます」(371ページ)
と誘拐犯に指示されます。
ここは計算違いな気がしました。 
三億円って現金で用意するとかなりの嵩になります。
日本銀行のホームページでみると、1億円の大きさは、よこ38cm、たて32cm、高さ約10cmで、重さは約10kgとのことです。
入れようとしたらバッグ一個とはいかないのでは? それに入るような大きなバッグが用意できたとしても、かなりの重さですからそう簡単には運べません。奥さんが運び役というのは大変だと思います。また見事奪取に成功しても、そのあと犯人もどうやって運ぶのか、かなり難しい。
犯人サイドのことは考えられているのかな、と思えたのですが、それまでの行程はちょっと不用意な感じがぬぐえませんね。
片桐大三郎の目の付け処の鋭さはミステリ的にステキでしたが。

そして最後の「片桐大三郎最後の季節」。
「レーン最後の事件」 (創元推理文庫)がああいう話なので、当然読者はそういう話を想定して読みますよね。
扱われる事件は、区民文化振興会館の施錠されたキャビネットから消えた幻のシナリオ。
この「片桐大三郎最後の季節」に至って、「片桐大三郎とXYZの悲劇」が単なる短編集ではなく、連作短編として非常に周到に紡ぎあげられていることがわかり、ミステリ的に満足できるはずです。
ああ、これが作者はやりたかったんですね。
ある意味、「片桐大三郎とXYZの悲劇」というタイトルも、
エラリー・クイーンのドルリー・レーン四部作を意識したように書かれているそれぞれの短編も、各話で繰り返される片桐大三郎のエピソードも、みーんな、「片桐大三郎最後の季節」のためのミスディレクション、壮大な伏線ということなのかも。

ひさしぶりの倉知淳、たっぷり楽しみました。


<蛇足1>
「それやこれやのメリットを鑑みて、Xは咄嗟に」(143ページ)
と片桐大三郎が言っていまして、ちょっとがっかり。
歌舞伎名門生まれで、時代劇(映画、テレビ)で名を馳せた国民的スターが、こういうことば遣いなんですね......
かと思えば、
「私の経験から鑑みますに、恐らく~」(269ページ)
なんて、運転手の熊谷さんまで!

<蛇足2>
「先生は一ヶ月ほど前に起きた白銀台(しろがねだい)の画家殺害事件をご記憶でしょうか?」(172ページ)
白銀台とあって、あれっと思いました。
白金台の間違いかな? と一瞬思ったものの、それだったらルビは「しろねだい」。
倉知淳が架空の地名をつけたということですね。

<蛇足3>
「乃枝はもう慣れっこになっているけれど、そりゃまあ驚くわなあ、と思う。」(227ページ)
片桐大三郎に会う人物がびっくりしていることに対する乃枝の感想で、内容的にはそうだろうなと思うものの、おどろくわなあという表現に笑ってしまいました。大卒、入社2年目の若手の女性が、こんな言い方しないでしょう(笑)。

<蛇足4>
「季節によってはそこで弁当を使うサラリーマンや、子供を日光浴がてら遊ばせたりする母親がいたりします」(401ページ)
年配の刑事のセリフですが、弁当を使う、と由緒正しい表現を使っています。
弁当って、もともとは「使う」もので「食べる」ものではないらしいですね。




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