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悲しみのイレーヌ [海外の作家 ら行]


悲しみのイレーヌ (文春文庫 ル 6-3)

悲しみのイレーヌ (文春文庫 ル 6-3)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2015/10/09
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
異様な手口で惨殺された二人の女。カミーユ・ヴェルーヴェン警部は部下たちと捜査を開始するが、やがて第二の事件が発生。カミーユは事件の恐るべき共通点を発見する……。『その女アレックス』の著者が放つミステリ賞4冠に輝く衝撃作。あまりに悪意に満ちた犯罪計画――あなたも犯人の悪意から逃れられない。


「その女アレックス」 (文春文庫)が、2014年週刊文春ミステリーベスト10 と「このミステリーがすごい! 2015年版」と本屋大賞翻訳小説部門第1位、2015本格ミステリベスト10第10位とものすごーく話題になっていたころ、そのランクの作品なので購入はしたもののあまり気乗りせず、積読のままにしているうちに他の作品の翻訳が進み、デビュー作であるこの「悲しみのイレーヌ」 (文春文庫)も訳されました。
これまた積読だったのをようやく読みました。
シリーズは「その女アレックス」の次の「傷だらけのカミーユ」 (文春文庫) に加えて、番外編ともいうべき?「わが母なるロージー」 (文春文庫)も今年9月に訳されています。
「その女アレックス」を読むと、「悲しみのイレーヌ」のネタバレになってしまうらしいので、のんびりしていて、「悲しみのイレーヌ」を先に読むことができてよかったかもしれません。

この「悲しみのイレーヌ」 も、「その女アレックス」に続き大好評で、「このミステリーがすごい! 2016年版」第2位、2015年週刊文春ミステリーベスト10 第1位になっています。
また、ミステリ賞4冠に輝くとのことですね。もっともこの4つがなんという賞なのかわかりませんでした。コニャック・ミステリー大賞だけは解説で名前が挙がっているのですが......

これだけ綺羅星のように輝かしい実績を持っている作品なので、ちょっと言うのに躊躇してしまいますが、結論から申し上げると、ぼく、この作品だめです......
なによりラストが受け付けられない......ぼくの限界を超えちゃっています。
シリアル・キラー物や異常心理物を通して、かなり免疫がついてきたとは思うのですが、それでもこの作品はリミットオーバーでした。

ミステリとして見た場合、まず、第一部から第二部への切り替えがポイントになろうかと思うのですが、これ、個人的には不発でした。
で? だから、どうした!? という感じ。

もう一つのポイントは、ミステリのタイトルが次々と出てくるということ。
ハドリー・チェイス「ミス・ブランディッシの蘭」 (創元推理文庫)
ジェイムズ・エルロイ「ブラック・ダリア」 (文春文庫)
ウィリアム・マッキルヴァニー「夜を深く葬れ」 (ハヤカワ・ミステリ)
ブレット・イーストン・エリス「アメリカン・サイコ」〈上〉 〈下〉 (角川文庫)
ジョン・D・マクドナルド「夜の終り」(創元推理文庫)
マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー 「ロセアンナ」 (角川文庫)
こういう趣向は好きです。

ミステリのタイトルといえば、ほかにも
「たとえば、ハーバード・リーバーマンの『死者の都会(まち)』は傑作ですが、まだ古典とは言えません。アガサ・クリスティーの『そして誰もいなくなった』はその逆です。一方『アクロイド殺し』は傑作であり、古典でもあります。」(250ページ)
なんて語られています。
とすると、『そして誰もいなくなった』は古典だけど、傑作ではないのですね......なんかかなりの人間を敵に回しそうな言説ですが......あるいはフランスではこういう評価が定着しているのでしょうか?

ミステリ的には、ラストの見当が割と早い段階でついてしまう、ということは大きな欠点ではないかと思います。
グロテスクなラストの見当がついてしまう。
そういうラストじゃないといいな、なにか仕掛けがあるといいな、と思いながらこわごわ読み進んでいくと、なんの工夫も芸もなく(というとさすがに言い過ぎかもしれませんが、そういう印象を持ちました)想定通りのラストになだれ込んでいって、読者の嫌悪を催す......
嫌いな作品でも、よくできているな、と思えることはありますが、この作品の場合はそう言えません。
筆力があることは、嫌というほど伝わってきましたが。

あと、これは作者の責任ではありませんが、邦題がひどいと思いました。
原題はTravail soigné。Google翻訳で日本語にしてみると「丁寧な仕事」。
もちろん邦題は原題からかけ離れたものにして構わないとは思いますが、「悲しみのイレーヌ」はないだろう、と。
もう次作「その女アレックス」が訳されていて、「悲しみのイレーヌ」 の内容もある程度読者から想定されちゃうのでタイトルなんかどうでもいいとでも思ったのでしょうか?

ということで、これほどの世評の高さと自分の感想との落差にちょっとしょんぼりします。
けれど、こういう作品を楽しめる人間になりたいとも思わないので、感覚の違いと割り切らないといけませんね。
残虐、残酷なものが苦手は方は遠ざけておくのがよい作品かと思います。

ところで、amazon の商品紹介が、上に引用しているカバー裏のあらすじとは違うものなんですが、驚くほどストーリーを割っていて、ネタバレが激しいんですよね。こういうのって、売り上げに悪影響を及ぼすのではないでしょうか?
色を変えて下に引用しておきます。読み終わった後ご覧ください。
『その女アレックス』のヴェルーヴェン警部のデビュー作。 奇怪な連続殺人をめぐる物語がたどりつく驚愕の真相。 若い女性の惨殺死体が発見された。パリ警視庁のヴェルーヴェン警部は、裕福な着道楽の部下ルイらとともに捜査を担当することになった。殺人の手口はきわめて凄惨で、現場には犯人のものと思われる「おれは帰ってきた」という血文字が残されていた。 やがて過去の未解決事件とのつながりが浮かび上がる。手口は異なるものの、残虐な殺人であることは一致していた。これは連続殺人なのだ。そして捜査が進むにつれ、犯人は有名なミステリ作品に登場する惨殺死体を模して殺人を繰り返しているらしいことが判明した。ジェイムズ・エルロイの『ブラック・ダリア』、ブレット・イーストン・エリスの『アメリカン・サイコ』……ほかにも未解決の事件があるのではないか? ヴェルーヴェン警部らは過去の事件のファイルを渉猟し、犯人の痕跡を探る。 しかし警部は知らなかった――犯人の魔の手が、自身の身重の妻イレーヌへと伸びていることを。 強烈なサスペンスとともに語られてゆくサイコ・キラーとの対決。だがそれは第二部に入るや、まったく違った相貌を読者にみせつけることになる! 『その女アレックス』の殺人芸術家ルメートルの衝撃的デビュー作。


<蛇足1>
『つまり頭は切れるのだが、世にいう「ピーターの法則」のとおり、管理職になって能力の限界まで昇進したことで結果的に無能になっただけなのだ。』(131ページ)
恥ずかしながら、「ピーターの法則」知りませんでした。
(1)能力主義の階層社会では人は能力の限界まで出世し、有能なスタッフは無能な管理職になる
(2)時が経つにつれ無能な人はその地位に落ち着き、有能な人は無能な管理職の地位に落ち着く。その結果、各階層は無能な人で埋め尽くされる
(3)ゆえに組織の仕事は、出世余地のある無能レベルに達していない人によって遂行される
怖いっ。

<蛇足2>
「あのな、メフディ、フランス人の半分は作家のなりそこないで、残りの半分は画家のなりそこないなんだ。」(258ページ)
笑ってしまいました......

<蛇足3>
「百二十!」「まさにミステリの珠玉のコレクションで、このジャンルの基礎固めをしたい人間には理想的だが、犯罪捜査の資料としては手に余る。」(261ページ)
この百二十冊のリスト、見てみたいですね!


原題:Travail soigné
作者:Pierre Lemaitre
刊行:2006年
訳者:橘明美


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